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明けない夜の向こう側 第三章 14 

数カ月後、待ちに待った新薬が日本へ届けられた。
日本医師会が、腎臓移植経験のある医師が所属する総合病院の中から、条件を絞って候補を選抜し、臨床試験が行われることになった。

臨床試験は、動物実験で十分な研究を重ねた上で、患者を選別し術後に新薬投与を行うものだが、移植を待っている患者は多く、使われる腎臓は、死体腎、生体腎共に十分とは言えなかった。
華桜陰大学では、郁人が生体腎手術後に投薬される最初の患者となる。
この臨床試験には、各大学の威信がかかっていた。
勿論、華桜陰大学でも失敗は許されない。

「さあ、行こうか。郁人」

手術室へと運ばれてゆく郁人に、櫂が声をかけた。

「ん……。お父さん、行ってきます……」

移送車の上の郁人は、父親に向けて小さく手を振った。
青ざめた鳴澤は、強張った笑顔を張りつかせていた。
心ここにあらずという風で、移植の日を告げられて以来落ち着きがない。
傍に居る主治医の望月も、医学書をひっくり返したり、過去のカルテを確認したりしていた。
彼もそれなりに、郁人を心配し手を尽くしてきたという事なのだろう。

運ばれてゆく二つ目の移送車(ストレッチャー)には陸が眠っていた。
郁人の手術の日が決まったと報告した時、陸は薄く笑って「そう、良かった」と口にした。
とうに、心を決めていた。
櫂には意図があったが、隠し事のできない陸から鳴澤に伝わるのを恐れて、伝えていない。
だが手術着に着替えた陸に睡眠剤を与え、意識が朦朧とし始めたとき、櫂はたまらず声をかけた。

「陸……陸は陸の人生を送るために生まれたんだ。決して郁人のために生まれてきたわけじゃない。おれが証明して見せるからな……全部終わるまで、ゆっくりおやすみ」

硬く目を瞑った陸の耳に、櫂の言葉が届いたかどうかは定かではないが、郁人の手術の日を告げた時、櫂を見つめる瞳は信頼に満ちていた。

「にいちゃ。頑張って。郁人を助けてやって」

「全力を尽くすよ」

二人の息子を見送る鳴澤は、唇を震わせた。

「櫂……郁人と陸を頼む……どうか……」

「はい。第二執刀医として精一杯努めます」

執刀は印南教授が行い、櫂はその助手に回る。
すでに模擬手術を何度も繰り返し、手術の手順は頭の中に叩きこまれていた。
血管の場所も、腎臓を収める場所も把握していた。
麻酔医が、血圧と心拍数を確認し、異常のないのを報告する。

「さあ。始めようか」

「よろしくお願いします」

「では、左腎臓全摘出します。摘出後、腎臓癌部分切除手術」

「はい」

マスク越しに印南教授が指示を出し、眩い無影灯が点けられた。

二台並んだ手術台の上には、郁人と壮年の男性が、麻酔を掛けられて横たわっている。
これこそが、櫂の陸を救う手立てだった。

彼には腎臓癌があり、家族は癌が他臓器に転移する前に、病気に侵された左の腎臓を摘出してくれるよう望んだ。
患者には頻繁に少量の血尿が見られ、腹部の腫れと、腰背部痛を訴えていることから、以前から櫂は腎臓癌を疑っていた。
腎臓癌は、症状がほとんど見られないことが多く、かなり進行して他の臓器に転移してから見つかることが多い。
しかし、開腹後確認したところ、病巣は運よく数パーセントの表面にとどまっていることが分かった。

「使えるな、鳴澤君」

「はい」

印南教授の手で、病変のある腎臓は体内から取り出されると、すぐに癌部分を切除され、保存液に浸された。
急がねばならない。



本日もお読みいただきありがとうございます。

透析患者さんに話を聞いたり、色々、調べながら書いておりますが、腎臓透析初期の頃の設定なので、あやふやなところも多いです。
なので、あくまでもこのお話はフィクション……という事でお願いします。

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