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明けない夜の向こう側 第三章 9 

必死になって息子を守ろうとする鳴澤は、一度は立ち消えになっていた根本的な治療の計画について蒸し返しそうとしていた。
戦争末期、秘密裏に国内で行われた母から子への移植手術は失敗に終わったが、一時的に娘が持ち直したことを鳴澤は覚えていた。
仕事上の付き合いのある米国人から、海外では既に移植手術が何例も行われているとも聞いていた。

「このままでは郁人はいずれ亡くなってしまうだろう。成長しないまま、永らえたとしてそれは生きていると言えるかね?」

「……義兄上」

「郁人は、透析を続ける以上子供のままだそうだよ。確かに顔色もよくなったし、他に治療法がない以上……仕方がないのかもしれないが……何とかしてやりたい……あの子まで、由美子のようになってしまたら……妻に合わせる顔がない……郁人を連れて、アメリカに渡ろうと思う」

「……本気ですか?」

「頼む。手を貸してくれ」

鳴澤は顔を覆った。
望月は静かに、口にした。

「義兄上……わたしが考えた最初の根治的な方法は、腎臓移植でした。むしろ今でも、郁人さまにはそれしかないと思っています」

「郁人を助けてくれ……何でもする」

以前、長女の由美子が急性腎不全で倒れた時、執刀症例の少ない生体腎手術をする話が進んだのも、鳴澤の必死の努力があった。
進駐軍内部に働きかけ、米国から密かに腎臓外科医を来日させた。金に糸目は付けなかった。
縁戚の望月は、知識と実力の乏しい内科医であったため、傍観するしかできなかったが、そのころの事は昨日の事のようにはっきりと覚えている。

望月も必死に勉強し、由美子の日々の病状をまとめた。
来日した医師は、印南教授がかつて留学していた病院の恩師でもあり、請われて印南が助手を務めることになった。
数年前、望月は羨望と憧憬を込めたまなざしで、手術室に消える印南の後姿を見送った。
今も外科医にはなれないが、妹の忘れ形見でもある郁人を救うためなら、何でもしようと心に決めていた。

櫂が自宅に帰ったとき、普段なら出迎える陸の姿が見えなかった。

「最上さん。陸の姿が見えないようなんですが?」

「そういえば、まだ大学からお帰りではないようです。もしかすると、病院に寄っていらっしゃるのかもしれませんね」

「おかしいな。今日は来なかったと、郁人が言っていたんだけど……誰かと食事にでも出かけたかな」

さっと青ざめた最上家令の顔色を、櫂は見逃さなかった。
決して立ち居振る舞いに影響するようなことはなかったが、彼は何かを隠している。
そして、それはすぐに櫂の知ることになった。
慌ただしく帰宅した笹崎が、最上家令と言葉を交わしたのち、大きなトランクを抱えて再び急いでどこかへ出かけようとするのを櫂は、掴まえた。

「笹崎さん。また、出かけるんですか?」

「……あ、ああ……仕事です」

「まるでしばらく家には帰れないほどの大荷物だ」

「そんなことは……」

「陸はどこですか?」

「さあ……わたしは知らない……」

櫂は咄嗟に、かまをかけてみた。

「……はっきり言って、僕を仲間にした方が得策じゃありませんか?僕は、鳴澤の義父には本当に感謝しているんです。陸を説得するのに、僕以外の適任者はいないと思います」

「櫂……くん」

笹崎と最上家令は顔を見合わせた。
最近、郁人の病状は落ち着いていて、緊急性はないはずだった。
だが、彼らは櫂や大学病院にも秘密で何かを行おうとしている。
想像通りなら、おそらく陸は望月と鳴澤の手で拉致されたと考えるべきだった。

「……陸は本宅ですか?」

「……」

揃って黙したまま語らないのは、そうだと言っているようなものだ。



本日もお読みいただきありがとうございます。
暴走してしまいそうな鳴澤です……

透析患者さんに話を聞いたり、色々、調べながら書いておりますが、腎臓透析初期の頃の設定なので、あやふやなところも多いです。
なので、あくまでもこのお話はフィクション……という事でお願いします。

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