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明けない夜の向こう側 第二章 9 

笹崎は訴えた。

「最上さん……あれでは、陸さまが余りに可哀想です。まるで陸さま個人には何の存在価値もないような物言いじゃありませんか。いくら、亡くなった奥様の弟だと言っても、人を人とも思わないようなあんな態度はない。何も知らない陸さまがお気の毒です」

「陸さまに情が移るのも分かる。笹崎……あの子はとてもいい子だ。だが、今は望月先生の言う通りにすべきだとわたしは思う。由美子さまの哀れな最期を忘れたわけではないだろう?医者としてではなく、あの方はお身内として、妹と姪を救えなかったんだ……望月先生は、今も自分を責めているはずだ」

「確かに、望月先生は、誰よりも郁人さまの事を案じているのでしょうけど……あの方は、未だに戦後消滅した華族の栄耀を、忘れられないで引きずっているだけだと思います」

「それもこれも旦那様のためだ。戦後、華族制度が崩壊し生活を守るために、気位の高い旦那様が、奥様のご実家、金満家の望月家に頭を下げてどれほどの苦労をしたか、覚えているだろう?笹崎、今更、君がぶれてどうするね。家を盛り立て、郁人さまを守ることこそが、我々使用人が最優先に考えるべきことじゃないかね」

最上家令にそう言われては、笹崎には反論の間隙もなかった。
室内にいる望月は、自分の立ち場を正当化して、陸に長々と説明している。

「わたしは元々、鳴澤家の縁戚なんだ。君には血統の話などわからないだろうが、由美子さまがみまかった以上、どうあっても嫡男である郁人さまを守らなければならない責任があるんだよ。今回の事件は、使用人たちも、郁人さまがしばらくお元気だったから、油断してしまったと反省している。常にもっと危機感をもって接するべきだったとね。君ではなく、郁人さまが転落してもおかしくない状況だった。わたしはね、そこだけは君にとても感謝しているんだよ。鳴澤さまにも、今回の事は不問にすると言っていただけたが、二度と同じ不祥事を起こすつもりはない。郁人さまの為にも、くれぐれも健康に留意してくれたまえ」

望月の話の内容が今一つ理解できず、黙って聞いていた陸は、ふと視線を巡らせて望月の顔を見た。
何か、得体のしれない事が起きようとしているのは確かだった。
何度も繰り返される、「郁人さまの為」という言葉が、枷のように陸にまとわりつく気がする。つまり、陸は「郁人さまの為」なら、何をされても仕方がない立場にあるという事なのか。
俯いてしまった陸に、望月は追い打ちをかけた。

「そういえば、君の兄上は、華桜陰高校にいるのだね。兄上の為にも、君は足を引っ張るような事をしてはいけないよ。わかるね?医者になるには君には想像もつかないほどの金が必要だ。鳴澤の家の庇護の下で、君の兄上がいっぱしの医者になれるように、わたしも先輩として精々気にかけて置くとしよう」

まるで櫂が、自力で医者になることなどないような口ぶりに、思わず陸は食って掛かった。

「にいちゃは、自分だけの力で医者になれる……。すごく頭がいいんだから。入学試験だって一番だったって聞いています。望月先生の手なんか借りなくたって……にいちゃは……」

とんと、望月が陸の肩を押し、陸は寝台に転がった。望月が顔を寄せて覗き込む。

「君の兄上が、どれほど優秀でも……もしも、試験が採点後、誰かの手によって改ざんされるようなことがあればどうなるかな?……落第などされては、鳴澤家の恥だ。家名に泥を塗るような養子など鳴澤家には必要ないと、放逐されることになるだろう。……そんなことにならなければいいがねぇ」

「そんなことできるわけない……」

望月はくっと、笑いかみ殺した。

「どうかな?言っただろう?わたしには知り合いが大勢いるんだよ」

「……にいちゃ……」

陸の唇が戦慄いて(わなな)、傍に居ない櫂を思わず求めた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
追い詰められてゆく陸……

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