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明けない夜の向こう側 5 

櫂たちは、自分たちで飯を作り掃除をし、近くの農家の草取りをした。
夕暮れになると、僅かばかりの食料を日当代わりに貰い、それを施設の子供たちみんなで食べる自給自足のような日々だった。
櫂は他の子どもたちに比べると、体も大きかったので、自然と大人がするような重労働を強いられていた。
施設長は、すまないねと櫂をねぎらってくれた。
施設長自身も子供らと共に、農家で飼っている馬や牛の為に、近くの川から何杯も水を汲み、飼葉を拵え、豚のために餌を炊いた。
それと共に、他の子どもたちにもできる仕事を考えて、割り振った。
生きるためには何をしてもいい、どんなことをしてでも生きるんだよと、施設長は時々、僧侶にあるまじき話をした。
戦地で辛酸をなめ、内地に引き上げて来て知った、櫂たち戦争孤児の置かれた環境境遇に、心を寄せる数少ない大人だった。

毎日、誰もが生きるために必死で、戦争が終わったことなど一度も考えたりしなかった。
時折、助けられなかった母親と翔也の事を思い出したが、施設の子供は皆同じような境遇だった。
仕事で疲れ果てた櫂は、まるで泥のように眠った。

厚生省からは、戦災孤児等保護対策要綱などという紙切れが届いていたらしいが、皆、生活に追われ孤児に救いの手を伸ばす余裕などほとんどいない。櫂たちが置かれた現実とは程遠かった。

ある日、手伝いをしている農家の人が、櫂を養子にしてやってもいいと施設の職員に言いに来た。
一人でも食い扶持を減らしたい施設としては、二つ返事で引き受けようとしたが、櫂は頑として頷かなかった。

「先生。おれが一人貰われていったとして、ここの飯はどうなるんだ?おれが農家で働いて、今まで通り皆の為に芋を貰って来たり米を貰って来た方が良いんじゃないのか?」

「櫂。だけどね、農家の子供になった方が、今よりずっと君の暮らしが楽になる。君を養子にくれと言っている家には子供がいないから、養子になれば、いずれは田畑も貰えるだろう。僕はきちんと話をするつもりだよ。それに、陸くんの事を心配しているのだったら、時折様子を見に来ると良いんじゃないか」

櫂は真っ直ぐに、施設長を見つめた。
僧侶の言葉に嘘はなかった。
本気で自分の事を案じてくれている。そう思った。
彼は、信頼できる数少ない大人だったから、櫂は本音を話した。

「養子にする代わりに、尋常小学校を卒業したら、朝から晩までただで仕事をしてくれというんだろう?あの家は、丈夫で健康な奴なら、おれじゃなくても誰だっていいんだ」

「……確かに労働力として欲しいのが本当の所だろうね」

やっぱりと、櫂は口にした。

「先生、おれは働くのが嫌なわけじゃない。だけど……おれは最初、ここに連れてこられた時、学校に行かせてやるという話を聞いた。いつから学校に行かせてもらえるんだ?おれは、いつか父ちゃんみたいにお医者さんになりたいんだ。おれはその勉強がしたいんだ。貰われていったら、もう学校には行けなくなる」

先生と呼ばれた職員は、櫂を懐柔するのを諦めたようだ。

「そうか。櫂は勉強がしたかったのか」

「おれだけじゃない。みんな学校に行きたいって言ってる」

「長い間、学校に行けていないから、村の子供たちと同じ学校に行くのなら、小さい子と同じ教室で学ぶことになるよ。それでもいいかい?」

櫂は頷いた。
軍医少尉として徴兵された父親のように、いつか周囲に尊敬される医者になりたかった。
今は、寄る辺ない身の上で、生きるのもやっとだが、そのための苦労ならどんなことでもしようと思っていた。
櫂の想いを知り、施設長もできる限りの事をしようと動いてくれた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
生きるのに大変な時代です。……どこがBLやねん……(。-`ω-)

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