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アンドロイドSⅤは挑発する 18【最終話】とあとがき 

「そうだったのか……。これまでこういう事がなかったから、失念していたよ。強制的にシャットダウンされた場合、通常の指紋認証と声紋認証と、一連の起動作業で回復されるんだった」
「なんだ、それ……初歩的な設定じゃないか……自分で作ったくせに、そんなことも忘れていたのか?精密機械が聞いてあきれる。うちのパソコンと同じレベルだぞ」

音羽は呆れ、音矢は居直った。

「アンドロイドが壊れたからすぐに来てくれと、慌てふためいて電話をかけてきたのは誰だ。お前も、説明書から目を通すタイプだったはずだろう?厚志が絡むと、おまえだって前後がわからなくなるじゃないか」
「兄さんが、余計なオプションばかりに力を入れるからこういうことになるんだ。大体、セクスロイドじゃあるまいし、あの子にセクスの必要はないだろう?ただのお手伝いロボットの姿をしていたら、あっくんもやきもちを焼く必要はなかったんだ」
「けっ……そのくらいの楽しみがなくて、アンドロイドなんぞ作っていられるか。男なら、アンドロイドと言えばそういう下世話な楽しみを考えるものだ。お前が堅物すぎるんだよ」

音矢は聞き捨てならない本音を、あっさりと吐露した。

「そう言えば、厚志が音羽のアンドロイドになりたいと訪ねて来たのは、いつだったかな」
「つい昨日のような気がするけど、あれから何年も経ったんだよな。勲章のような大きな傷は、今もあっくんのお腹にあるし、傷を見ると時々はアンドロイドAUを思い出すよ。可哀想なくらい一生懸命で、僕はあっという間に恋に落ちたんだ。そう言えば、気になっていたんだが、アンドロイドSⅤはどういう理由でSVという名前なんだ?」
「黙秘する。それは企業秘密だ」
「Soft Vinyl(ソフトビニール)かと思った」
「……お前のそういうところが嫌いだ」

音矢は拗ねた。

「やはりな。頭がいいくせに、そういうセンスのない所は、相変わらずだ」
「人の事が言えるか。あれが、表皮が一番安価に出来るんだよ。とにかく、モニターは続けるってことで良いんだな?」

音羽は、アンドロイドSⅤに甲斐甲斐しく服を着せているあっくんを、この上なく優しい目で見つめた。

「あっくんが拾ったアンドロイドは、責任もって面倒を見るって言ったから、このままでいい。一緒に暮らすよ」
「汎用性アンドロイドの開発まで、もう少しなんだ。こちらもモニターを続けてくれると正直助かる」

しばらくたって、世界的ファッションデザイナー、マルセル・ガシアンが演出を手掛けた結婚式場のCMが一世を風靡した。
出演者は、世界的なユニセクスモデルのATUSHIと、アンドロイドだった。

「ほら。あっくんのCMの時間だよ」
「一緒に見よう。おいで、ショーくん」
「はい。ご主人様」

純白のウエディングベールだけを身にまとったATUSHIと、アンドロイドSⅤが互いに契約の言葉を交わし、やがてATUSHIが「……愛している」と囁くと、アンドロイドは薔薇の寝床へ「永遠に……」と無音で口にして、ゆっくりと倒れ込む……

放映後、素性を問い合わせる多くの電話で回線がパンクし、無名のアンドロイドは、一躍有名人(?)となった。
正真正銘のアンドロイドとわかると、多くの引き合いが来たが、嫣然とした微笑と共に、自らが他人の手に渡るのをアンドロイドSⅤは、「否」と口にした。

「わたしは、ご主人様のものですから……」

このCM以降、アンドロイドSⅤの製作者、工学博士の秋月音矢も一躍、時の人になった。
汎用性アンドロイドを作るために、莫大な費用が必要だった音矢は、メディア露出が増えたのを機に世界的に募金を募り、個人的にアンドロイドを作るという約束でアラブの石油王から、天文学的な数字の援助を取り付けるのに成功した。

「なぁ、音羽。アンドロイドSⅤ002に、ラバー製の黒いブーメランぱんつを、オプションにつけようと思うんだが、どう思う?脱がせたら精巧なセクスがぽろり……って、萌えないか?」
「兄貴のオプションには、王様も度肝を抜かれるだろうな。それよりも、新しいアンドロイドがショーくんと同じ顔ってのはやめてくれよ」
「型があるから安価に出来るんだが、SVは試作品だからオリジナルだ。汎用型と同じ顔は作らない。それに、王様の好みは金髪碧眼なんだ。厚志の性格を参考にしたかったんだが、お前の激怒する顔が浮かんだので諦めた」
「当然だ。あっくんが何人もいてたまるか」
「怒るなよ。冗談だ。それに、SVは設定し直したから、起動が楽になっただろう?」
「ああ。毎朝、楽しそうに起動しているよ。仲が良くて妬けるくらいだ。今は……二人で台所にいるんだ。ショーがあっくんに料理を教えている」

キッチンでは、アンドロイドSⅤが、あっくんとカレーを作っていた。
もっともあっくんにできるのは、玉ねぎを剥くことくらいだ。
弾んだ声が聞こえてくる。

「音羽。電話は終わった?もうすぐできるから、座って待っていて」

食事のあとは、三人一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで眠るのだとあっくんは言う。
いつしか家の中にアンドロイドがいるのが当たり前になった。
子供のいる家庭のように、真ん中にアンドロイドのショーくんを置いて、あっくんは優しく抱きしめる。

「音羽と愛し合うのは、ショーくんが眠った後ね」

勿論、音羽には肯定の選択肢しかない。

毎朝、起動されると、アンドロイドSⅤの身体を走る全ての神経回路に、ゆっくりと命が廻ってゆく。
起動するアンドロイドの心臓に手を当てて、契約者は指紋と声紋の認証がされるのを待つ。
新しい契約によって、再起動とシャットダウンの入力は同じ言葉になった。
睫毛が光を弾いて、薄く瞼が開く。

契約の言葉はこうだ。

「愛してる……」


              アンドロイドSⅤは挑発する 【完】



本日もお読みいただきありがとうございます。
覗いてくださる方がいて、うれしかったです。拍手もありがとうございました。
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本作品は、アンドロイドシリーズの続編です。
挿絵を描く時間もなかったのですが、いつか幸せな三人を描きたいなと思います。
久し振りに新しい作品を書いたので、語彙が浮かばず四苦八苦しました。

しばらくしたら、新しいお話を書こうと思います。
戦後しばらくたった頃、施設から引き取られた仲のいい二人の話です。二人を引き取った裕福な養父には、病弱な子供がいてその子の為に……というものなのですが、着地点のみ決まっていて、エピソードを絞り切れていません。

他サイトで、改稿作業をしておりますので、中々筆が進まないのですが、また、お知らせいたします。
お付き合いくださればうれしいです。
では、また。   此花咲耶

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