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小説・約束・54 

『良輔さま。

死んだと思っていた私たちの凛斗が、生きていました。


成長した姿を、早くお眼にかけたいです。


良平はすっかり仲良くなって、学校に通い日々を暮らしております。


お喜びになってください。


良平はあなたの後を継いで、あなたのような立派なお医者様になると決めたそうです。


こちらの心配ごとは、何もありません。

お父上も健やかにお暮らしです。


あなたもどうぞ、ご自愛下さい。


ご武運をお祈りいたしております。


沙代子』


そして、届いた返信。

『沙代子。

お互いの長年の気鬱の種が除かれて、僕も遠くで小躍りしたい気分でした。


大切な息子が生きていたあなたの喜びは、僕と同じものです。


本当に良かった。


僕は今、祖国を外敵に踏みにじられないよう、最後の砦で闘う兵士を守っています。


皇軍は苦労していますが、本土での決戦が一日でも伸びるように兵士は皆、今こそ報恩の時と必死です。


驚くかもしれません、僕も、たまに塹壕堀りをしています。


おそらく、ここから書く手紙は、これが最後になると思います。

凛斗君は時を経ても、君によく似ていますか?


時折、夢に見るのは君と同じ面差しの、幼い可愛い姿です。


子供達には、将来の事はなるべく自分で考えさせてあげてください。


お前たちのことは、全て御父上に一任していますから、きっとよくご相談して一人で悩まないでお過ごし下さい。


四国の山間では、そろそろアキアカネが飛んでいる頃でしょうか。


お体お大切に。


父上の事、よろしく頼みます。

『良平。


元気にしていますか?


父は毎日、四十度近い暑さと戦っています。


沙代子からの手紙を読んで、とても驚きました。


死んだと思っていた凛斗君が、生きていたのはきっと神仏のお引き合わせです。


長らく離れていた分、良くしてあげてください。


一人っ子だった良平に、兄が出来ましたね。


仲良くしてあげてください。


父は、二人の息子が成人したら、一緒に上手い酒を飲めるのを楽しみにしています。』

『凛斗君。


早く、君と言葉を交わしたいです。


聞かせてあげたい話がたくさんあるから。


過去のことは考えても何も変わりません。


君にはこれから長く素晴らしい未来が展望しているのですから、気鬱に囚われないでなりたい自分を模索思考することです。


兄が出来て、良平が大喜びしている姿が想像できます。


時々、癇癪を起こすようなときは、叱ってやってください。

君の苦労は、全て僕の考え違いが原因です。


お母さんと君には、詫びの言葉もありません、深々と頭を垂れるばかりです。


それでも君が生きていたことが、今の僕の希望です。


まず、身体を直して一番良い方法を共に考えましょう。


早く君に会いたいです。


皆さま、ご自愛下さい。


海と空が一つに溶け合う場所で、僕の大切な家族と日本を思います。


君達の父、佐藤良輔


読み終わって、二人して顔を見合わせた。


互いの頬に、光るものがあった。


「塹壕堀りしてるって。似合わないね。」


「失礼ですよ、良平。」


だって・・・ぽつりと良平が呟いた。


「それって、人がいないってことなんでしょう?」


「どうかしら。」


そうねとは、言えなかった。

「お爺様には?」


「先にお見せしましたよ。

お父様に、凛斗の事を知らせる事ができて本当に良かったって、ずいぶん喜んでくださって。」


良平は、祖父が自分に頭を下げたことを思い出した。


みんなが大切に思っているんだよ、凛斗。


早く元気になれ。


ちゃんとそういってやろうと思った。

「この葉書き、持って行ってもいいかな。」


「これから、凛斗の所へゆくの?」


「うん。今日ね、泊まってやろうと思って。」


母は、心配そうな顔を向けた。


やっと巡り会った母に何も甘えない青い眼の息子は、良平だけに心を開いていた。


どんなに愛おしくても手放した期間、ぽっかりと暗く抜け落ちた凛斗の闇に、母親は触れる勇気はなかった。


受けた心の傷が、癒える日は来るのだろうか・・・
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