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真夜中に降る雪 13 

聡一は愕然としていた。

高校を卒業し、大学に入学し、自分の後を追っていると気がついてから、いつか話をしようと思っていた。
大人になった今は過去の惨酷な遊びを、若気のいたりだったと謝って、子どもだったんだ、悪かったなと、一笑に伏してしまうつもりだった。

それなのに、今も春美は、部室に1人置いて行かれた過去の世界に住んでいる。
慕う後輩を残酷に翻弄する、聡一の居る過去に。

今となっては、滞った春美の時間を動かしてやるのが自分のすべき事だと思う。
聡一の頬にも、流れるものがあった。
7年分の深い悔恨が、胸に迫る……
誰かをこれほど長く傷つけているなどと、思いもしなかった。

「聞いて、春。俺は……ずっと、春を忘れた事なんてなかったよ」

聡一は春美の小さな顔を両手で挟むと、そっと優しく口付けた。
見開いた光る目に、自分が映る。

「好きだったよ、俺は。春のこと、いっぱい虐めたし、泣かせてしまったけど、本当に好きだったんだ」
「うそ……だ……」
「キスしたかった。触りたかった。抱き締めてずっと長いこと、一緒にいたかった。……だけど、俺にはそれが許されなかったんだ」
「せんぱ……ぃ」
「思い通りにできないのが悔しくて……だから、春に酷いことをした。焼き鏝を押し付けるように、春が俺のこと忘れないように印をつけた。いつも、俺のこと思い出すようにって念じながら……。言い訳にしか聞こえないだろうけど、昔の俺は大嘘つきだったんだ。好きな子を虐めるガキだったんだ」

ほろほろと、春美は泣いた。

今、前にいる聡一は、下草もまばらな春美の幼い茎をなぶって吐精を笑った、酷薄な先輩ではなかった。
そう思うのに、涙ばかり込み上げてきて自分でも不思議に思う。

「春。うつむかないで、こっちを向いて」
「せんぱ……ぃ。やです……や」

いつかと同じように言われて春美は、自分のとまらない涙の理由が分かった気がした。

日の差す部室で、震える唇が聡一を呼ぶ。
信じられないような酷い扱いを受けても、先輩が好きだった。
白いボールを投げる姿に、胸が震えた……

だから、おいでといわれれば誘いを拒めなかった。
冷たい鬼の棲み処とわかっていて、凍りつくような思いで扉を開けた。

「側に……いて」

行かないでと、過去の春美が嗚咽する。
側にいて。
キスして先輩……と、無音の唇が動いた。

「春?どうした?大丈夫なのか?」

呆然とした聡一の腕の中の春は、顔を覆って泣き伏していた。

のろのろと下着を拾い、身に付け、笑われながら零した自分の白い精を拭く……
繰り返される儀式のたびに、心臓が悲しみで張り裂けそうだった。
かわいそうな、かわいそうな春美。
どんなに好きでも愛されなかった惨めな春美。

春美の緊張しきった身体から、ふっと力が抜け崩れ落ちた。

「春っ!?」

極限の緊張が、春美の張り詰めた糸をぷつりと切った。







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