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真夜中に降る雪 12 

ここで泣くわけには行かないと思ったが、春美は、こみ上げる嗚咽を抑えきれなかった。

「……う……っ」
「春?どうした?痛むのか?」
「い……えっ」

慌てて顔を洗っている振りをしたが、笑おうとして不自然に顔が歪み、聡一に本心を知られてしまった。

「うっ……えっ……」
「春。泣くな。悪いのは春じゃない」
「せん……ぱぃ」
「いつも春を泣かしたのは俺だ。わかってるんだ、どれだけ傷つけたか……いまだに春のここは、傷が癒えてなくて、涙でいっぱいなんだな。ごめんな……春」

とんと軽く胸を突かれた後、くしゃくしゃと髪の毛をかき混ぜられて、湯船に涙が散った。
そのまま、胸に引き寄せられる。

優しくしないで……と、春美が呟いた。

憎めなくなる。

「一緒に入ってもいいか?もう、昔みたいに筋肉質な細身じゃなくなってしまったんだが……」

すっぽりと聡一の膝の間に足を伸ばして抱えられ、正面から泣き顔を見られなくて済むのが救いだった。
凍えた足の筋肉を解すように、傷に触らないように、ゆっくりと丁寧に指が添えられる。
運動部で培った馴れた仕草を、どこか懐かしく思う。

「春は、変わらないなぁ。細いな、二の腕も」
「どこもかも、貧相で恥ずかしいです」

抱きしめられた春美の背中を聡一の指がつっと走る。
肩甲骨をなぞり背後から、耳の後ろを撫で上げられた。

「くすぐったい」

脇から腕が回された。
拒めない悪戯な指が腹から上り胸を探る。
聡一は、何もないなだらかな白い平らな胸に、ささやかな尖りを探していた。
手探りの指先が、対象を捕まえた。
戸惑ってはいるが、嫌がってはいないと確信していた。
指の腹が、ゆっくりと春美の気持ちを煽ろうとしている。
探り出された小さな場所に意識を取られ、春美はくっと息を詰めた。

「……や……やっ……駄目です、せんぱ……ぃ。ぼく、温まったら帰りますから。もう、足の痛みも落ち着きましたから」

耳元で春美の大好きな低い声がささやいた。

「今度は春が俺を置いてゆくのか?もう一度、傍にいて、行かないでって言ってくれ、春」
「せんぱ……ぃ。」
「昔みたいに、キスして、帰らないでって言って、春」
「せんぱ……ぃ。あ……ぁ……」
「そうしたら、俺は今度こそ春の傍にいるから……春、言って」

聡一は背後からこの上なく優しく、春美を抱きしめた。
春美の頬を静かに煌く粒が転がってゆく。
どれ程その言葉を待っていただろう……
抱き締められたまま、回した腕に温かい涙がぱたぱたと落ちるのを聡一も感じていた。
うつむいた春美が静かに泣くのを認め、聡一が膝の上の春美をずらし顔を覗き込んだ。

「あっ」
「春。ごめん……泣かせてごめん。ずっと長いこと、傷つけたままほおって置いてごめん」

聡一が春美の背後から、肩に顔を埋めた。

「う……あっ……やっ、優しくしちゃやだ。ぼくは、冷たくて人でなしの先輩に別れを言うために来たんだ……」

切羽詰った春美の真実が、言葉になった。

「優しくされたら、ぼくはまたずっと先輩に囚われたままだ。そんなの、いやだ……ぁ……」
「春」

優しいのは嫌だと春美は声をあげて泣き、聡一はただしっかりと春美を抱き締めた。

聡一の胸が騒ぐ。
春美は、過去の自分と決別するためにここへ来たのだ。
どれだけ酷く春美を扱ってきたか、聡一は思い出していた。

色の白い綺麗な少年を、毎日自分の憂さ晴らしに利用した。
何も知らなかった白雪を、泥足で踏みつけにした幼い自分の惨酷さが恨めしかった。
この時を経ても愛おしい者を、自分は決して手に入れてはいけないのだと思った。






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