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真夜中に降る雪 6 

面会謝絶が解けると同時に、同僚は次々見舞いに来た。
バスケットに山のように料理をつめて、身を挺して助けた彼女もやってきたが、春美はその日、彼女に別れを告げた。
彼女は詫びを言いたかったようだが、春美はさえぎった。

「今回のは、単なる事故だよ。だから、自分のせいだなんて、思わないで」
「でも……」
「ごめんね、このまま一緒に居ると君が看病しているうちに、ぼくへの同情を愛情と勘違いしそうなのが恐いんだ。だから一度、離れて考えたいと思う」
「わたしは、同情も優しい気持ちだと思うのだけど……あなたがそういう気持ちなら、いいわ。そうする」
「うん、ごめん。これからリハビリとかもあるし、ボルトを抜く手術もあるんだ。今は、自分のことしか考えられないから」
「わかったわ。これまでありがとう」

二人でしんみりとしかけた所へ、孝幸ほか数人が押しかけて、そのままそこでクリスマスパーティのようになってしまった。

「少しだけ、にぎやかになるけどいいですか」
「個室ですから多少は多目に見ますけど、アルコールは駄目ですよ」

覗きに来た看護士にお目こぼししてもらったのは、普段の品行方正な春美の入院態度の賜物だった。
若いせいか直りは早く、その後、医師の見立てよりも早くほぼ二ヵ月で退院は出来たが、春美の足には少しばかり後遺症が残った。
足の側面に痺れが残って、歩くたびに雲の上を歩くようにふわふわとする。
支える杖がないと、頻繁に転び、まともに歩けない状態だった。
夕方になると、痛めた方の足だけでなく、もう片方も浮腫んで腫れ上がり、ほんの少しの段差も上がれないのに呆然としながら、ひたすら病院に通いリハビリに励んだ。

三か月後に仕事に復帰したものの、結局春美は元通りには働けなかった。
療法士が告げた、今以上に良くなることはないと思いますという事実が重い。
復帰の挨拶をこなした仕事帰り、歩道橋が行く手を阻むように、そびえ立って見えた。
毎日、二段飛ばしで跳ね上がっていた場所で、今は助けの必要な老人のように動きがのろい。
両足がぱんぱんに張れて、もう一歩も動けなかった。

「こんなんじゃ、仕事に復帰しても、孝幸に迷惑掛けちまう。もう、営業は潮時かなぁ」

情けなくて、足元が霞んだ。
せっかく、やりがいのある仕事を得たのに。
好きな仕事を失うと思ったら悲しくなって、くしゅっと鼻水をすすった。

「くそぉ……」
「春!」

上から降ってきた知っている声に、聞こえない振りをして一段ずつ階段を上る。
目の前に差し出された手に、仕方なく顔を上げた。

「これは、リハビリみたいなものですから。ほおって置いてください」
「ほおって置けるはずないだろう。痛むんだろう?泣きながら、階段を上がってるのに、ほおっておけるはずないじゃないか。いいから、掴まれ」

優しくされると涙が零れそうになるのは、昔からの悪い癖だ。
どうして自分が弱ったこんなときに現れるんだ。
思わず伸ばされた手に縋ろうとした自分に、春美は腹を立てていた。
だから、その後わめきちらしたのはただの八つ当たりだ。

「いつだってぼくの事、ほおって置いたじゃないか。今更、助けなんて要らない。先輩が、ぼくに優しかったことなんて、一度だってないんだ。優しくしておいて冷たくするくらいなら、はじめからぼくに触るな!」

自分でも驚くほど乾いた冷たい声だった。
相手を威嚇するようなきつい目を向けて、春美は片足ずつ引きずり上げた。
バランスが崩れそうになって、何度も転びかけたが決して手出しを許さなかった。
歯を食いしばって、足を運ぶ。
知らない間に、痛みで頬が濡れていた。

「うっ、うう~~っ……」

歩道橋の一番上に聡一が座り、両手を広げた。

「ほら。頑張れ、クララ」
「何だよ、もう……。ぼくは、車椅子のクララじゃない」

一段ごとに凍りついた心が溶解してゆく気がする。
欲しくてたまらなかった腕がそこにある。
駄目だ、あの手を欲しがったら今度こそ傷ついて、二度と立ち直れなくなるんだ。

「頑張れ、クララ」
「うるさい!」
「もう少しだ、クララ」
「うるさい!うるさい!ハイジ、うるさい!ハイジのばかっ!アルプスに帰れっ!」

なんとも思っていないくせに、誰かの手が欲しい弱ったときにだけ現れて、手を差し出すなんて。
先輩は卑怯だ。

「嫌いだ、先輩なんて!ぼくが傷ついて泣いているのを見たいだけなんだ。いつだってそうだ。泣いてる顔が見たいだけなんだ。頼んだって側にいてくれたことなんて、一度もなかったくせに。何で今頃、ここにいるんだよ。さっさと帰って、奥さんと仲良くやってれば良いだろっ!」
「そうだな……春の言う通りだ。今更、昔からずっと春が好きでした、なんて虫が良すぎるよな……」
「は……ぁ?」

歩道橋の上で、信じられない言葉を聞いた春美は、足の痛みも忘れその場に立ち尽くしていた。






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