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流れる星に愛をこめて 2 

「お星さまのばか~……うわわぁあああ~~~ん」

バスルームで泣き喚くぼくの事情に、遠流は意外と冷静だった。
泣いているぼくの頭を、落ち着いてシャンプーしきちんと服を着せた。

「遠流がいけないんだ。遠流がいっつも触ってばかりだから、オメガとエルが逃げちゃったんだぁ……」
「そうだなぁ。だとしたら、みんな俺が悪いな、みく、ごめんな」
「みくじゃない~~~わああぁぁん」
「どこもかも子供みたいだ、よしひさ」
「一緒に探してやるから、泣くなって」

えぐえぐとしゃくりあげながら、この上なく優しい遠流の声に浸っていた。
涙の止まらないぼくの首に腕を回して、大好きな低い甘い声でぼくをなだめる。

「何があっても、みくが好きだよ」
「ほ、ほんと……?」
「泣き虫で甘えん坊で、俺の声が好きな、みくが好き」
「お、オメガとエ、エルが……いなくても……?」

恐ろしいほどまじめな声で、遠流は耳元でぼくを瞬殺した。

「いや。それは、ちょっと困るかな」

ぱんと目をみはったまま、ぼくは凍りついた。

「やっぱり、遠流はぼくじゃなくても良かったんだ」
「え……?お前、何言ってるの?」

ぼくがもし青いうさぎなら、今すぐ寂しさで心が凍えて死んでしまっただろう。
痛いほど胸が冷えた。
遠流の好きなおちんちんがなくなってしまったら、もう一緒に居る理由も、必要も無い。
そんな風にきっぱりと引導を告げられ、ぼくは黙ってぎこちなくコートに袖を通した。
夜半降り積むと天気予報が言っていた粉雪の降りしきる中、12時の鐘に追い立てられるように、ぼくは階段を駆け下りる。

「さようなら」

涙で濡れた強張った頬を、何とか向けるとぼくは別れを告げた。
さようなら、大好きな遠流。
ずっと側で、きみの声を聞いて居たかったよ……

「待てっ!みく~~~!誤解だ~~!」

凍えた月が、中空に懸かる。
涙で輪郭が滲んで見えた。

***

自宅に帰って、ベッドの下を探ってみた。
布団の間に挟まっているかもと思って、毛布をぱたぱたと振ってみた。

「オメガ~?」
「エル~、いないの?」

この期に及んで、遠流が名づけたぼくの分身を呼ぶというのも変なんだけど。
結局、悲しくて泣き寝入りしてしまった朝方、何かがぼくの頬にそっと触れる。
薄く目を開けたら、見覚えのあるぴんくのちっこいの。

「オメガ……帰ってきたのか」

申し訳なさそうに頷くオメガとエルは、くっついてそこにいた。
早速パジャマの下を脱いで、手のひらで大切に掬った分身を、そっと下半身のあるべき位置に当ててみた。

「くっつけ!」

呪紋のように唱えてみたが、オメガとエルはぽろりと腿の上を滑り床に落ちた。
何度やっても、まるで他人の物のようによそよそしく、最後には両面テープで貼ってみたが身体の一部になることはなかった。

「くそぉ、なんでだよ。なんでくっつかないんだよ」

つるりとした無毛のそこは、ビニール人形の下半身だった。

「うっ……うっ……ぼくがいらないって言っちゃったから……」

枕に埋める悲痛な泣き声に、オメガが可哀想に思ったのか頭をちょっともたげてぼくの涙を拭いた。

「あ、ありがと」

自分の分身に、礼を言うってどうなの?
ほんの少し、照れたように赤くなったオメガがじっとそこにいるので、何か無性に安心して、それからぼくは眠ってしまった。
ぼくが頭を乗せた、枕の横にそうっと身体を伸ばしてオメガも眠る。
たぶん、オメガは幸せな夢を見るんだよ。
離れてしまったのに、どこか別の次元か何かでつながっているのかどうか、朝起きたらぼくのエルЛは一人前に、ちょっと大きくきびしくなっていたりする。

「朝勃ち?」

頬をほんのり薔薇色に染めて、小さくうなずくエル。
それから、しばらくすると、いたたまれない様子で奇妙な動きが入り、オメガはぴょんとベッドから飛び降りるとドアに向かった。

「ちょっ……ちょっと、どこ行くの?」

どうやら、トイレに向かおうとしているらしい。
どんな仕組みになったものか、便座の上にそっと乗せてやると、エルはちょろちょろと用を足した。
頭をぴっと振って、雄雄しいエルはちらりとぼくの方を見やり、便座から飛び降りた。

「器用だね。よく出来ました。」

頭を撫でてやると、エルはちょっと照れている……気がする。
どうやら、ぼくに尿意はなくても、こいつにはあるらしい。
そして6時になると、ファンタジーの世界を覚醒させる目覚まし時計がなる。

「あ、もう出勤しないと」

そのまま自宅においてゆこうかとも思ったが、色々想定した結果、連れてゆくことにした。
別れ別れになってまた、夕べのように探し回るのも悲しい。
何より、ぼくは最愛の恋人と別れたばかりなのだ。
ハンカチに包んでポケットにそっとしまった。

会社に行くと、不機嫌そうな出入り業者がぼくを待っていた。

「遠流!あ。今日の事務用品の注文は、後ほどファックスで流しますから。とお……松山さん。わざわざ出向いて頂かなくても、結構です」
「みくっ!……柳さん、紛失物についてお聞きしたい事があるのですが」

紛失物と聞いて、周囲に出社したばかりの人が集まってきた。

「オメガとエルはどうなったんだ?」
「やめてよ。人が居る所で。も、戻ってきたよ」

「どうしたんだね、柳くん。オメガがどうのこうのと、聞こえたが、時計でも紛失したのか。」
「ひえっ、部、部長。何でもないです。この間お食事した場所で、何か忘れ物をなさったそうなので、ちょっと応接室で話をしてきます。」
「三愛の松山と申します。お時間拝借します。」

部長は早く行って来いと、手で合図をした。
それはそうだろう、三愛と言えば大会社で、うちで扱う事務用品の上得意様だ。
そして、遠流はその仕入れ担当だった。
思わず見惚れる完璧な仕草で慇懃に腰を折ると、松山遠流は、受け付け嬢の視線をかいくぐりぼくを促した。
会議室にとんと背中を押されて入ると、後ろでカチャと内鍵のかかる音がする。

「股間、見せてみろ。」
「やだ。やだっ!」
「いいから!」

どうせ、抗ったって腕力では適わない。
いつだってこうやって玩具にして、ぼくのオメガとエルに執着しする。
だから、うっかりぼくは流れ星に、もういらないと叫んでしまい、オメガとエルの二人はいなくなった。
ん?二人……じゃないか?
何もない無毛のそこを遠流に晒して、素っ頓狂に叫んだ。

「あ~!忘れてた!持ってきてたんだ。大変だ~。潰れる、潰れるっ」

ずり落とされた上着の内ポケットのハンカチをそっと開く。

「あっ!」

そこにはぐったりとしてしまった、ぼくのオメガとエルが・・・

「どうした?弱ってるのか?」
「満員電車だったから、酸欠になったんだ。どうしよう……死んじゃう……オメガ・……エル」
「だいじょうぶだ、みく。ちゃんと脈は打ってるから、こうすれば。ふ~っ」

遠流はオメガエルに何度も人工呼吸を施し、オメガエルの顔色は生気を取り戻し涙さえ浮かべていた。
ピクリとエルが反応した。

「あ、こいつ感じちゃったんだな。やっぱ、可愛いな~、オメガエル。」
「エルのばかっ、はしたない。こんなところで感じるなんて、許しませんっ!」

ぼくに叱られて、傷心のエルはしょげていたが、やがて涙を振り切るとぴょんとテーブルの上から飛び降り扉にむかった。

「あっ、エルーっ!」

扉がノックされて、秘書課の女性の声がする。

「三愛の松山様。コーヒーでよろしかったでしょうか?」

ぼくは大急ぎで衣類を整え、ふざけた取引先はからりとドアを開け美女にこういった。

「ありがとう。気が利くね。でも、もう用が終わったから帰社します……どうしたの?」

秘書課の美女が、部屋の片隅を指さしたきり、金切り声を上げた。

「きゃああああーーーーーっ!ねずみーーっ!」

指の先には、オメガとエルが居て逃走を図っていた。
しまった、こいつトイレに連れて行かなきゃいけなかったんだ。
オメガとエルは必死でトイレの方へ走ってゆく。
駄目だ、そっちは階段だ。
ねずみ出没の悲鳴にフロアがざわめいて、騒ぎになろうとしていた。
どうしよう、オメガとエルが晒し物になったら。
どうしよう、だってあれはぼくの、おちんちん……。
ああっ、どんな説明をすればいいかわからない。

「やだ~」

駄目だ、直ぐ泣きそうになるのはぼくの悪い癖だ。
先を行く遠流が、踊り場でやっと捕まえた。
トイレに連れて行ってと叫んだら、納得したようだった。
貧血でへたりこんでしまったぼくを、誰かが医務室へと運んでくれた。
まずい。ぼく、今日何の仕事も出来ていない。
その後、トイレではとんでもない一大事が起きていた。






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