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隼と周二 番外編 SとⅯのほぐれぬ螺旋 7 

医師は、蒼太の病状を極めて冷静に告げた。
「状態を説明しますと、身体の衰弱がとても激しいです。肺以外にも肝臓と腎臓が弱っています。風邪をひいているのと細菌のせいで右肺は真っ白で水もたまっています。左肺だけが動いているような状況で酸素マスク使用もそのためです」
ぐら……と木本の重心が傾いだ。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、すみません。続けてください」
「肺炎球菌による肺炎の潜伏期間は1~3日で突然、発熱や悪寒に襲われます。震えと高熱がしばらく続くと思います」
「肺炎の原因は、細菌ですか?」
医師は蒼太の眠る傍らの椅子を勧めた。
「肺炎球菌は健康な者が検査すれば、喉に50~60%の頻度で見つかるほどの珍しくもない細菌です。ただ、免疫力があれば悪さをしない細菌で、通常は消滅するんですが、今回のように免疫力や体力が低下したような場合には一気に増殖して肺炎球菌感染症を発症します。樋渡君はずいぶん抵抗力が落ちているようなので、入院をしばらくしていただきます。肺の炎症が酷いので二週間か三週間は安静と加療が必要です。」

ベッドの上で、蒼太が激しく咳き込んだ。
「蒼太っ!」
長く引きつるような咳が続く。
丸くなって咳き込む背中をなでる木本のほうが、よほど病人のような顔をしていた。
「先生、この酷い咳を、楽にはしてやれないんですか?」
「肺炎で咽喉が痛むことは少ないのですが、こじらせた風邪が酷いみたいですね。まあ、このくらいなら、血を吐くようなことはないでしょう。」
「このくらいなら……?」
木本の顔からさっと血の気が引き、医師に向けた視線が険しくなった。
「いや。あまりに咳がひどいと、たまに血痰が出たり、咽喉が切れることもあるということです。何かあったら、ナースコールで呼んで下さい」

医師はそそくさと室外に出て、手招きして隼を呼んだ。
「隼くん。あの人は、君のお父さんと同じ仕事の人?」
「え~っと……。関係者です」
「そう、やっぱり。なかなか激しい性格みたいだね。まるで893さんみたいだ」
隼はにこにこと笑って告げた。
「木本さんは、樋渡会長のこと大好きなんです。だから、心配でどうしていいかわからないみたいです」
隼の主治医は、なるほどね~と頷いた。
「あの人、木本って言う名前なの?」
「そうです。木本さん」
「じゃ、両思いだね。樋渡君もね、ずっとうわごとで彼の名前を呼んでたから、教えてあげて」

うふふと可愛らしく笑って、主治医に手を振って、隼は教えてあげなくてもいいのと告げた。
「きっとこれから、いっぱい話をするから大丈夫です。せんせ、ありがとう」
「隼君は、もう、ほっぺにちゅってしてくれないのかな?先生、楽しみにしていたんだけど」
耳まで染めて、隼は主治医の耳元にささやいた。
「ぼくも、好きな人ができたの。せんせ、ごめんね」

木本は献身的に看病をし、病院でずっと寝泊りをした。
己を捨てた聖職者のように、甲斐甲斐しく蒼太の世話を焼いた。
看護師に身の回りの世話もさせず、汗をかくたびに、何度も身体を拭き着替えをさせた。
熱のせいと入院前の心労で、げっそりと肉の落ちた蒼太の細い身体はずいぶん頼りなかった。
くぼんだ目元に、青い影が落て痛々しい。

心を添わせる前に、強引に開発し身体をつなぐような酷い愛し方をしたのを思い出す。
熱いタオルでそっと鎖骨の上の癒えかけた傷痕をなぞると、小さくうめく。
「蒼太。まだ辛いか?」

薬で熱は大分抑えられたが、夕方と朝方になるとまだ熱が続いていた。
熱で潤んだ頼りない子猫の瞳で、蒼太は細くなった腕を伸ばした。
「うれしい……本物の木本さん……」
汗ばんだ額に、口付けを優しく落としておでこををくっつけた。
「まだ、熱あるなぁ。蒼太、ちゃんと飯食わないと、直るの遅いぞ」
この上なく冷たく自分に別れを告げたはずの年上の恋人に、不思議そうな顔を向けて、じっと見つめる。
「どう……して、ここにいるの?」
けじめをつける時期だと思い、愛おしい蒼太にとうとう木本は頭を下げた。
「俺が悪かった、蒼太。余りに大人気ない真似をした」
「木本さん?どうして、あやまるの。それって、ぼく、そばに居ても、良いってこと?」
「傍にいたいのは、俺のほうだ。傍に居てもいいか?」
「えっ……?」

蒼太の震える唇が、言葉を重ねた。
「ぼく……ね。本当はとてもこわいけど、木本さんが望むなら……いいよ。頑張ってみる」
「なに?」
「ピアッシング……。いれたいんでしょう?」
口にして見つめる瞳は、濡れて光っていた。
「木本さんがそうしたいなら、して」
「蒼太」
元々、木本の本心は、蒼太にそんなことをするつもりはなかった。
別れるつもりでいたから知り合いを呼び、わざと見せ付けて傷つけるような真似をしただけのことだ。

詫びの言葉の代わりにベッドの下からそっと手を伸ばして、力のない蒼太の細い茎をなぶってやった。
熱のせいで先端も熱を持ち、熱が指先から伝わってくるようだ。
細くなった太ももにもたれかかっているように、ひどく頼りない大人になりかけた少年の容(かたち)。
そっと触れるか触れないかの愛撫にも、弱った蒼太が頭をもたげて応えることはなかったが、声だけは甘くなる。
「ぼくは、いつだって全部あなたのものだよ」
「蒼太」
何故、ここまで蒼太は無条件に自分を欲するのだろう。
ふと、素朴な疑問が浮かび、口にしてみた。
「おまえは若いし、いくらでも相手を見つけられるのに、何で俺が良いんだ?俺は、おまえにひどいことしかしてないだろう?」
ほろほろと目じりから静かにこぼれた涙が、枕に吸われてゆく。
「愛、してくれたから」
考えがまとまらなくなって、木本は話の腰を折った。
「まあ、いい。直ったら、ちゃんと話をしような、蒼太」

濡れた黒曜石のような瞳が、涙で潤んだままじっと木本を見つめていた。
隼の言った、百万回心で繰り返すよりも、大切な一言を告げねばと蒼太は思っていた。
他の誰でもない、あなたが好きなのだとどうしても告げたかった。




※おバカな此花は、四話と五話の順番を間違えてあげました。
また、やってると思われたかもしれません。
すまぬ~。今日は、大丈夫です。




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