FC2ブログ

小説・約束・50 

昨日まで、達者で居ると思った者の訃報が朝には届く。
しかも届いた骨壷に入っているのは、名を書いた紙切れと石ころだった。
そんな日が続いていた。
何日か前も隣町では、電話交換所が爆撃され、交換手の若い女性が大勢亡くなったと騒いでいた。
お嫁にもまだ行っていない、若い乙女達の死は、田舎にはとても衝撃的なニュースとなった。
もし、彼らの身内が凛斗の事を知ったら、今日の友人のようにおそらくは凛斗を襲う暴徒になってしまうだろう。
家族にとって余りに深い悲しみは、何かのせいにしなければとても耐えられなかった。
・・・憎しみの的にしてしまうわけにはいかなかった。
きっと、もう少しの辛抱だ。
状況がどんどん悪くなっているのが、良平にも分かる。
変わらないのは、凛斗の笑顔だけだった・・・・

「良平。」

「ん・・・」

「怒ってる。」

知らないうちに、眉間に縦皺を作っていたらしい。

「怒ってないよ。どこまでやったっけ・・・」

良平は、凛斗に乞われるまま勉強をみてやっていた。
あっという間に、カタカナとひらがなを覚えて、海綿が水を吸うようだと思った。
きっと、元から頭がいいんだと思う。

「あのね。この本は、もう読んだよ。」

広げて見せたのは、御伽草子だった。

「漢字は?」

「分かる所だけ、拾って読んだの。この話はね酒呑童子が、可哀想だった。」

「そう?大江山の悪い鬼を退治する話だろ?」

「京の都からお姫様をさらって来たのはね、きっと童子が一人で寂しかったから。」

凛斗は酒呑童子は、悪い奴じゃないと言う。

「子供の頃には、鬼じゃなければよかったのにって、毎日鏡の前で泣いていたと・・・ぼくは、思う。」

凛斗の解釈は、変わっていた。

「渡辺綱が山伏姿になって、訪ねてきたときも、きっとうれしかったんだよ。一緒にお酒が飲めて、ああ良かった。明日も今日と同じなら良いのに、って楽しみにしていたと思う。」

「じゃあさ、退治されたときどう思ったと思う?」

「・・・遊んでくれて、ありがとう・・・?」

そうか、そんな風にこの本を読んだんだ・・・だったらきっと、この酒呑童子は凛斗なんだね。
青い眼じゃなかったら良かったのに・・・と思ったこともあったんだ。
そんな風に、良平は思った。
だとしたら、ぼくは凛斗の何・・・?
仲良く酒を飲んだ後、酒呑童子を騙しうちにした正義の四天王なんだろうか・・・

「又、来るね。」

そう約束して、良平は毎日帰途につく。
その日、凛斗は帰ろうとする良平のシャツを握ったまま離さなかった。
まだ欠落した記憶は戻っていないようだと、医師は言っていた。


「あのね。・・・毎日、怖い夢ばかりを見るんだ・・・一人でいたときは、皆で過ごす幸せな夢ばかり見ていたのにどうしてかなぁ・・・」

凛斗は涙を浮かべた。

「今は、独りで眠るのが怖い。」

「良平。帰らないで・・・ここに居て・・・?」

「それは、できないよ、凛斗。だってまだ戦争が終わってない。もう少しの辛抱だから我慢して。」

良平は、子供のように甘える凛斗に、つい厳しい言葉をかけてしまった。

「そんな女々しい事、言うなよ。」

「女々しい?それは、いけないこと?」

「本当だったら、凛斗はもう陸軍幼年学校に行ける年なんだよ。聞き分けのないこというなよ。」

本当は、ずっとここにいたいけど・・・と続ければ良かった。
凛斗は薄く悲しそうに微笑んで、背中を向けた。

「もう言わないから、良平・・・。ごめんなさい。」

「うん。」

陸軍幼年学校に志願する年齢は、今は14歳からだったが凛斗は、とても幼く見えた。
とても・・・

関連記事

0 Comments

Leave a comment