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隼と周二 学園の狂騒 8 

隼の目の前の硝子テーブルの上に、女性用の華奢な下着がいくつか置いてあった。
色とりどりの、どこか甘いお菓子を思わせるパステルカラーのものが多かった。
「ん?これ、なぁに?」
下着の横にある、妙にぷるぷるした質感の不思議なものに、隼は手を伸ばしていた。
「ああ、それね。隼の……そのラブちゃんに、付けてみようかと思って貰ってきた」
隼の抱いているキューピー、ラブちゃんを取り上げると、胸に装着した。
キューピーのラブちゃんは、どこか不自然な柔らかいおっぱいができて、なんだか困っているように見える。
「これ、シリコンブラって言うんだ。胸の不自由なお姉さんが、男騙すのに上げ底よりさわり心地がいいってんで使ってるらしい。あと、工事着工前のおかまのお姉さんとかさ」
隼は、周二のしようとすることを感じ取っていた。
「……パパが遅くなると心配するから、ぼくは、お家に帰ります」
「待てって!」
「ぼく、漢(おとこ)だもん」
「知ってるって。隼は意外に漢(おとこ)らしいとこあるもんな」
「う、ん」
そういいながらも、周二は腕を伸ばした。
「なあ、ちょっとブラジャー胸に当ててみるだけだって」
「やです~」
「隼のお姫さま、すっごく可愛かった。漢(おとこ)らしい隼も良いけど、可愛いのもいいなって思ったんだ。俺は、隼のことすごく好きだけど、隼は俺が好き?」
「ん……好き。だけど、だけどね、これはや」
めのほよう(お仕事)中の隼を、そっと膝の上に抱えあげた。
「隼。一回だけ。ね?片手でブラジャー外してみるだけだって」
「だって。ドレスだって無理矢理先輩が着せたのに……高い靴はいたから、今も足のここん所痛いよ……?」
「俺さ、がっこで隼とでかいハートのオムライス、半分こして食ってもいいなって、思ってるんだ」
腕の中の、恋人が思わず身を固くした。
「それ、交換、条件……?」
「俺、隼に嘘ついたことあったかな~?」
「……」
くるりと向き直ると隼は、これを外してといい、周二は言うままに首輪と手錠を外した。
そのうち、さっさと服を着始めて隼は帰り支度を始めた。
「何、やってんだよ。こっちこいよ」
「や」
鼻の頭をほんの少し紅くして、涙目の隼は首を振り抗った。
「ぼく、漢(おとこ)だもんっ!」
「そんなの知ってるって。いいから、ここに来い。早くしないと怒るぞ」
ズボンと素肌にシャツを一枚引っ掛けただけの、恋人の腕を掴んだ。

ぱん!
乾いた音を立てて鳴ったのは、周二の頬だった。

「ぃてっ?何すんだよっ?いいから、落ち着けって」
ぽろぽろ零れる涙を拭いもせずに、上着とかばんを胸に抱えた隼は扉に向かった。
「わた……」
こんな時は、どう言えば良いのかと、急いで脳内で言葉を捜したが、上手く表現できる言葉が見つからない。
隼は、余り人との会話が得意じゃないのだ。
「わた?って、何?何だよ。言いたいことがあるなら、言ってみろよ」
隼が何を言おうとしているのか想像もつかなくて、オウム返しに間抜けに聞き返した。
しかもちょっと、厳しく迫ってしまった。
「わっ、わたくし、実家に帰らせていただきますっ!」
「えーーーーーっ!?お、おまえ、何、言ってるの?」
そう言われた周二も慌てふためいて考えが及ばず、まるで新婚夫婦の初めての痴話喧嘩のようになっていることに気が付いてもいない。
可愛い恋人も、余りに切羽詰って訳がわからなくなっている。
「もう、帰りませんからっ。わたくしっ、しばらく、実家で暮らしますっ!」
「待てっ!隼、すまん、俺が悪かったっ!考え直せ!」
「や」
「隼ーーーーっ!」

苛々と周二は、木本に愚痴った。
「急にぷりぷり怒り出してさ、あいつ、もう意味わかんね~の」
「周二坊ちゃん。ねんねは訳も分からず拗ねたりわめいたりしませんよ。何か、よほどのことがあったんじゃ」
周二は、困った顔のラブちゃんを、木本に向かって投げつけた。
「ね~よ、そんなもん。いつもだったらさ、何言っても紅くなって恥ずかしそうにするだけだろ?なのに、なんで……あいつ。意味わかんね~」
そして、本当に次の日から隼は周二の所に来なくなった。
隼のために松本が買ってきたでっかい「男のプリン」も賞味期限が切れそうになって、三人でむなしく食べた。
大事に飼っていた愛犬がいなくなってしまった傷心の飼い主のように、周二は持ち主のいない西陣織の最高級首輪を、呆然と眺めて深いため息をついた。
「はぁーーーーーーーーーっ」
「うわ~、辛気臭ぇ。周二坊ちゃん、その長い溜息吐くの止めにしてくださいよ。うっとおしくて叶わない」
とうとう、松本にまで呆れられて周二は落ち込んでいた。
「くそぉ。何でこねぇんだよ。あいつ。もう、今度来たら犯リ殺してやるから」
集めに集めた、エログッズを片っ端から試してやるから、早く来いと、周二は独りごちた。

やめてと言っても、もう絶対やめてやらない。
涙が紅潮した頬を転がって、お願いだからとねだっても喉の奥に届くまで、打ち付けてやる。
そんな妄想で気合を入れても、周二の分身もしょんぼりと俯いたままだった。
以前のように女を相手に、憂さを晴らす気もならなかった。
「くそっ、隼~」
ラブちゃん相手に緊縛練習しても、気は晴れない。
学校で毎日下駄箱のところで、小さく黙示で挨拶していたのに、それすら時間をずらしているみたいだ。
授業は真面目に受けているが、元のダサい黒縁眼鏡になってしまって、まるで周二と知り合う前に戻ってしまったようだ。
ただ、周二は気が付かなかったが、隼の周りの人間、例えば生徒会長は様子が変わったのに気が付いていた。
校庭の大きな銀杏の木を、教室の窓から眺めては大きなため息を吐いている。
時折、聞こえないくらいの小さな声で、恋人の名前を呼んで涙ぐんでいた。
「周二くんばか~、あほ~、あんぽんたん~、すっ……ん」
自分が怒っている原因も分からないような、野獣の恋人とは別れた方が良いのだろうか。
沢木パパにも、らぶらぶの生徒会長にも相談できない。
隼は独りで、深く傷ついていた。






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