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隼と周二 学園の狂騒 7 

そういえば生徒会長の書いた人魚姫でも、銀色の魚の尾と引き換えに人魚姫は人間の足を貰っていた。
エロくないので、確か隼に読ませる予定を、没にしたんだと言っていたはずだ。

作・演出:樋渡蒼太
タイトル:『人魚姫』(ボツ原稿)

『願いを聞いた、海の底の魔女は言う』
「人間の男の子の足をあげる代わりに、お前のその鈴を転がしたような声をもらうよ。いいのかい?」
「それでも、かまいません。どうかぼくに、人間の足を下さい」
震えながら懸命に、人魚姫は魔女に願いを伝えました。
王子の愛撫に、どれほど身を捩っても、可愛らしく甘える人魚の声は、もう二度と出なくなったのです。
海の底の兄たちは、愛する人の優しい愛撫にも応えられなくなった哀れな人魚のことを思って、涙を浮かべました。
男の人魚姫が魔女に貰った足の間には、可愛らしいぴんくのぞうさんがくっついていました。
王子さまの深い口付けに、人魚姫のぞうさんは小さく震えて喘いだのです。
ですが、人魚姫の切ない喘ぎと吐息は、王子さまの耳にはもう届きませんでした。
やがて、隣国の姫(男)が王子の舞踏会にやって来ます。
人魚姫の透明な白い肌が、羞恥に薄紅に染まるのを愛おしいと思いながら、王子は小鳥のようにさえずる隣国の姫(男)の声に惹かれて行きました。
声を失った人魚姫は、腕を絡めて仲むつまじく語る二人の様子を、悲しげな瞳で見つめるばかりでした。
寄せては返す波の音を、子守唄代わりに王子は眠っています。
人魚姫が手に入れたかったその王子の胸には、人魚姫ではなく隣国の美しい少年が抱かれているのでした。
ああ……王子さま。

人魚姫はたまらくなって、ぽろぽろと真珠の涙を零しました。
床を転がる涙は、数え切れないほどの煌く美しい真珠となったのです。
どうぞ、ぼくの姿を見てください。
あなたのお傍にいるために、こうして銀色の尾を足に変えました。
人間の男の姫となり、ぴんくのぞうさんも付けました。
人間の足で一歩歩くたびに、激しい痛みがぼくを襲います。
それでも踊れといわれたら、ぼくは笑顔でもういいといわれるまで一晩中でも、王子さまのためにワルツを踊るでしょう。
あなたのお傍にいる、隣国の美しい男の姫を本当に愛していらっしゃるのですか。
あなたを助けたのは、このぼくですとあなたにお伝えしたいのに、ぼくはぴんくのぞうさんの付いた足と引き換えに声を失いました。

愛する王子さま。
あなたの愛が得られないと、ぼくは明日の朝日を浴びたら、海の泡になってしまうのです。
あなたの胸をナイフで突いて、その温かな血を足にかければ足は元に戻るけど、愛する王子さまにそんなことは、できません。
王子さま。
どうか、お願いです。
その方でなく、ぼくを見てください。
ぼくの全てをかけて、あなたを愛する真実に気付いて。
お願い、ぼくを愛して……

心配する海の兄たちがそっと近づき、男の人魚姫の白い肌にそっと口付けを落としました。
「さあ。そのナイフを、早く王子の胸に突き立てておしまい」
哀れな男の人魚姫は、兄たちの勧めにもいやいやと首を振りました。
もがきながら、泣きながら、赦しを請いながら人魚姫は足を開くと、王子の名を呼びながら涙と共に白い精を零しました。
悲しむ兄たちは、人魚姫の零したものを認めると、とうとう諦めてさめざめと泣いたのです。
声のない人魚姫は、最後まで人間の姿で居ることを望み、悲しみの中で白々と明けてくる朝を迎えました。
もう、王子さまのお傍で、凛々しい姿を眺めることもできません。
最後に、そっと眠る王子さまに口付けると、王子の胸の血を吸うはずのナイフで、男の人魚姫は自分の胸を突きました。

『さようなら。さようなら。王子さま……ぼくは、あなたを命の限り、愛していました』

そのまま朝陽を浴びて、海の泡になった人魚姫の魂は救い上げられました。
その身体は朝陽に包まれて、ぐんぐん天に昇ってゆくようでした。
「それが、真実の愛だよ」
どこかで神さまの声がします。
今は、満ち足りた気持で人魚姫は天国の花園にいるのです。

ぱお~。
周二のぞうさんが、吼えた。
「駄目だ。お前のコスプレ、危険すぎ。萌え死ぬわ。で、人魚ってどこに突っ込むんだ?」
アンデルセンにあやまれ。

開店前の木本の経営するSMバーで、隼はフルーツタワーを眺めて幸せそうだった。
「おなか、ぺこぺこ~」
そのまま学校に戻る事無く周二の家に来てしまったから、学校では長蛇の列に並んだ人々が騒いで大騒ぎになったらしい。
テレビのモニターに大写しになって、一体誰なんだと話は大きくなったそうだが、何も知らない二人は呑気にフルーツをぱくついていた。

数時間前。
事態の収拾に努めた生徒会長だったが、さすがに張り上げた声も群集にかき消されかけた。
『アクシデントは、文化祭に付き物だよなぁ』
外部の派手な男が、低い一声で蒼太の手から拡声器を取ると、恫喝するように瞬時に周囲を黙らせた。
「あ、木本さん」
助けてもらったのが嬉しくて胸に縋りつかんばかりの生徒会長、樋渡蒼太を視線で制し木本は学外に出た。
そこにいた学校関係者が存在の異質さに気が付き、騒ぎになると蒼太が困ることになる。
「なんで、もう帰るんですか?ほら、蒼太から喫茶のチケットこんなに貰ってたのに。ケーキと紅茶くらい、食べて帰りましょうよ。木本の兄貴ってば。も~」
松本は、ほんの少し不服そうだった。
派手な外車も目立つから、遠く離れた駐車場に置いて来た。
何だかんだ言いながら、蒼太が可愛くて仕方がないと思っているのは、傍にいる松本にもばればれだった。
「一本くれ」
紫煙をくゆらし、高架の歩道橋で座り込むと、漂う煙に視線を泳がせた。
「なぁ。蒼太、立派に生徒会長やってたな。」
「あいつ、やっぱり頭良いんでしょうね。あれだけの全校生徒、指一本で動かしちまうんですから。先公も一目置いてたっぽいですしね」
「自由にしてやらなきゃなあ。そろそろ、あいつも進路とか考える頃だろ」

季節はいつの間にか、晩秋となりアキアカネが飛ぶようになった。
「でも、あいつ。木本さんのこと大好きじゃないですか。きっと離れませんよ」
「そんなときゃ、こっちから別れてやるのが、大人ってもんだろ」
木本はほっとため息をつき、いつもと違う顔を見せていた樋渡蒼太の顔を思い浮かべた。
『これも、愛?木本さん・・・?』
何故かいつも縋りつくような目で、愛を確認する年下の恋人だった。
狂おしい秋に、引導をわたし自由にしてやろうと思った。
元々、沢木隼に対する「おいた」が過ぎて、仕置き代わりに無理矢理抱いた。
真性サディストの自分に必死で縋る、蒼太を可愛いと本心から思っていた。
だが今日、木本は気付いてしまったのだ。
「蒼太と俺じゃ、生きる世界が違うんだよ」
そう冷たく言い放った年上の恋人の傍で、蒼太は血の気を失って青白い頬のまま、辛うじて立っていた。
カップを持つ手が、小刻みに震えていた。

それは、又、この先別の話になる。






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