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小説・約束・49 

今朝校門のところで、いきなり掴みかかってきた奴がいる。

「おまえの所に、あるんだろう?」

わけもわからず思わず、良平は降りかかったその手を、払い除けてしまった。

「言っておくけど、僕の家は他の奴等と違って、佐藤の小作じゃないからな。聞かせろよ。」

その子の友人が、やめとけよと言いながら間に入ろうとしたが、今度は良平が止めた。

「何が、聞きたいのさ。全然、言ってる意味が分からないよ。」

顔を真っ赤にした少年が、吐き捨てた。

「じゃあ、聞いてやるよ。青い眼の人形はどこにあるんだよ。」

「隠してるんだろう?」

すうっと、背中につめたい物が走った・・・

「・・・何、言ってんだ・・・?」

凛斗の事は誰にも言っていない。
勝次も言うはずもない。
佐藤の家の使用人も、知っている人間はほんのわずかだった。

「鬼畜米英の話じゃないのか?」

「噂を知っているぞ、おまえの家の母ちゃんは昔、亜米利加に居たってな。おまえは、本当は亜米利加人じゃないのか。」

周囲で見守る子供達が、ざわめいた。
良平は売り言葉に、沸騰した。

「もう、一回言ってみろ!僕のお父さんは、日本人の佐藤良輔だ!」

取っ組み合いになった。
誰かが教員室に、人を呼びに走ったらしい。
すぐに、学校配属将校が何事かとかけてきた。

「貴様等!何事か!」

さすがに手が止まった。

「喧嘩のわけを言ってみなさい。」

良平はふいっと、横を向いた。

「なかなか、素直になれんらしいね、君は。」

もう一人は、横で鼻をすすっていた。
何だよ、泣きたいのはこっちの方だ。
わけのわからないことで、朝っぱらから・・・・そう思ったが、「青い眼」という単語が耳から離れなかった。

「きのう、兄ちゃんが・・・サイパンで戦死したって知らせが・・・。だ・・・だから、青い眼の、米国から贈られた人形を燃やしてやろうと思って・・・」

「こ、校長先生に聞いたけど、学校にはないって言うから、だったら佐藤の家にあるかと思って。」

先ほどの勢いは萎えてしまって、その子はひたすら涙にくれていた・・・
なんだ、セルロイド人形の話か・・・と、ともかく、良平は胸をなでおろした。
凛斗のことさえばれてなければ、それでいいと思った。

「僕の家で、そんな人形は見かけなかったよ。それに、お母さんが亜米利加にいたって話しだけど、仕方ないだろう。」

「僕のお父さんは、大使館に勤めていたんだから・・・」

この軍人に、すこしでも付け入る隙を作ってはならなかった。

「おじいさまは、明治天皇の近衛兵でした。」

良平は、向き直ってそういった。

「父は、軍医少尉として南方の前線にいます。僕も祖父や、父のように、お国に役立つ人間になりたいです。」

「うむ。そして、君のお兄さんも、立派にご奉公されたのだな。」

「もう、行ってよろしい。」

二人は揃って開放されたが、少しばかりきまずい空気が漂った。

「あの・・・佐藤、ごめんよ。悪かったよ。大事なお母さんをその・・・」

「良平でいいよ。僕だっておあいこだ。いきなり頭に血が上ってしまった。お兄さんの事知らなくて、ごめんね。」

半べその顔が笑った。
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