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隼と周二 大人の階段上ります 1 

いつも朝、下駄箱のところで周二くんと視線を絡ませる。
通りすがりに、ぼくは小さく周二くんにだけ聞こえるように「おはよ」とささやく。
周二くんは片方の口角だけを上げて、ほんの少し精悍な顔を歪めて微笑とも皮肉とも付かない表情を浮かべる。
それが毎朝の日課だった。

でも、その日は違っていた。
通りすがりに、いつもどおり小さな声をかけると、乾いた返事が返って来た。
「今日、来なくていいから」
「えっ?」
返事があったことよりも、内容に驚いて思わず聞き返してしまった。
「……どうして?」
周二くんとは、毎日あんなにくっついて話をしていたのに。
放課後を待ちかねて、待ち合わせ先の喫茶店へ大急ぎで行ったら、毎日手を上げて笑って待っていてくれたのに。
「めのほよう」だからなって、夕べも腕の中で約束した。
最近は、まだ下手だけど、ちゃんと大人のキスできるようになったなって、褒めてくれた。
今日も殺人的に可愛いかったぜ、隼。ってぼくがおうちに着いた頃にメールをくれた。
なのに。
「どうして?」
思わず、呆然としてしまった。
小刻みに、膝が震える。
自動車の修理代が払えてない上に、とらさんのカーペットも駄目にしてしまったから周二くんは、とうとうぼくのこと愛想尽かして嫌いになってしまったのだろうか。
背中にかけた小さな「どうして?」という言葉の返事は、隣にいるお友達の視線が拒絶した。
周二くんのお友達は、みんな良いやつだって周二くんは言うけど大きくて強そうで、ぼくは少しだけこわい。

ぼんやりと考え込んでいたら、いつの間にか授業が始まっていて、ぼくは簡単な問題をミスしてしまった。
「沢木がこんな問題をミスるなんて、珍しいなぁ」
数学の先生が薄く笑った。
「すみません……」
初歩的なミスの連続に、顔から火が出そうだった。
ぼくは黒い眼鏡の縁をきゅと持ち上げて、もう一度計算に取り掛かった。
数学の授業に周二くんがいることは、滅多にないからぼうっとしてたみたいだ。
いけない、いけない、ちゃんとしないと。

「沢木。ちょっといいかな?」
放課後、先輩の生徒会長から呼び出しがかかる。
「生徒会室にちょっと来てくれないか?昨年の体育祭の予算のことを聞きたいから」と言われた。
「生徒会室、先月から旧校舎に移動になったから、間違えないでね。前の視聴覚室だよ」
「あ、はい」
周二くんに、来なくていいと言われたのが、なぜだか一日中ずっと気になっていた。
学校では、余り話をしないことになっている。
ぼくが一応生徒会執行部所属の優等生で、周二くんは筋金入りの不良だから一緒にいちゃまずいらしい。
「もし、隼に何かあったら大変だからさ。巻き添えが心配だし(親父が出てくると)後がおっかないし。木本の言う通り、人目のあるところでは、いっそくっついてない方がいいと思うんだ」
周二くんは、そう言ってた。
昨日までは放課後一緒にいられるから気にならなかったけど、突然、来なくていいなんてどうしてなの?と、きちんと聞きたかった。
でも、学校では話ができない。
筋肉の薄く張った大きな背中が、ぼくを無視して下駄箱の向こうに消えてゆく。
声をかけたかったけど、他のお友達がいるからきっと迷惑だね。
立ち尽くすぼくに、生徒会長が気付いた。

「沢木、そわそわして何か急ぎの用でもあるの?」
「いえ、今日は時間あるから大丈夫……です。すぐに行きます」
ぼくは現実に引き戻されて、滲んだ涙を振り払った。






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