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隼と周二 狂った夏 3 

授業が終わり外に出ると、校門の側にそこだけ違和感を持った黒塗りの車が横付けされていた。
関わりになりたくない生徒達は、物言わずに通り過ぎる。
押し出されるように、二人が車に近づいた。
「逃げなかっただな、感心、感心」
若い男がドアを開けて、乗るようにと顎を上げて促した。
不安げに隼が後ろを見やる。
「周二くん……」
見たこともない車内のシャンデリアに、思わず息を呑んで腕に縋った隼の背中に、周二がそっと手を回してぽんぽんと宥めた。
「大丈夫だ、隼。行こ」
美しい囚われの王子を死刑台に送る執行人のような、どこか甘い気持で周二は座席に乗り込んだ隼の手を握った。
早く、俺のものになれ、隼。

***

着いた事務所で、隼と周二に聞かせるように、男達が方針を決めている。
「まあ、金を作るんなら、売るのが一番手っ取り早いだろうなぁ」
車の修理代を払えという話だ。
不安げな瞳が彷徨いながら、隣に座る周二の横顔を見つめていた。
握った手が、小刻みにふるふると揺れ、汗ばんでいた。
「うるって、内臓?ぼく、もう家に帰れなくなる?」
周二にささやいたら、若い男が聞きかすった。
「ははっ、ねんねも、臓器売買とか知ってんだ」
くすくすと、冷酷な笑みを貼り付けた若い男が、楽しそうに隼の制服に手をかけた。
昨日のように脱がされると知って、思わず身震いする。
「ぼく、逃げません。だからっ……」
服を奪わないで、手錠を嵌めないでと、本当は言いたかった。
「はいはい。商品は検品も大切だからね~」
「やっだ」
身を捩っても到底力ではかなわなくて、あっさりと又剥き身にされてしまった。
「この可愛~いおちんちんを、誰かに買ってもらおうね」

両手を挙げさせると下肢に手を滑らせて、わざと小さな青い胡桃をやわやわと揉み込んだ。
じゃら……と重く冷たい金属音が、部屋に響いた。
「いやぁっ!しゅ……うじくんっ、周二くんっ」
「っ!てめっ、隼に触んなっ!殺すぞっ!」
周二の本気の怒声に、思わず若い男の手が止まった。

堅気ではない雰囲気をまとった男が、ふっと紫煙を吐いて立ち上がった。
「困りましたね。手っ取り早く金になるのに、売るのはいやなんだ?」
隼は、大きく何度も懸命に頷く。
もう思考が止まってしまって、まとも言葉は欠片も出てこない。
元々、饒舌なたちではなかった。
「おちんちんを買ってもらう」なんて、意味がわからない。
それでも一生懸命言葉に変えた。
「だ、だって、売ろうにもこれ、外れないし。取っちゃったら、きっとも、う、くっつかないから……ひっく……女の子になっちゃう」
隼の内側には暗い絶望が嵐となって逆巻いていたが、怜悧な顔の男が一瞬表情を緩ませ、我慢できずにぷっと吹いた。
「……で、君は、親に修理代を出してくれるように頼むのもいやなんだね?あれもいや、これもいやじゃ修理代なんていつになったら出来るのかね。俺達は、君に意地悪で言ってるんじゃなくてね、早く弁償してくださいって話をしているんだよ?」
隼が濡れた瞳を、向ける。
「……うち、父子家庭だからパパに心配かけたくないんです。だから、弁償は自分で何とかし、たいです……」
小さくしゃくりあげたら、ほろ……と隼の片頬に光る滴が転がった。
「ふ~ん、健気なことだな」
なるほど、こいつは坊ちゃんがご執心のわけだ。
どんな育ちをして来たものか、まるで穢れのない無垢な雪原だ。
だからこそ坊ちゃんは、この白い雪の上に、一番に自分の足跡をつけたいと思ったのだろう。
男は隼の傍に寄ると、近づいた。
「もしかして「売り」の意味も分からないほどすれてないなんて、馬鹿な冗談言わないよねぇ?」
ついと顎を摘み上げて、泣き顔を覗き込んだ。
「すれてないねんねでも、援助交際だとか、売春の単語くらいは聞いたことあるだろ?」
「ぼく、そのくらい知ってます」
「ふ~ん」
「お、女の子が身体を売って、お金を貰うんです」
「そうだね。そういう事もあるね。だけど、最近は男の子でもやるんだよねぇ」
「え?」
「売・り・」
大きく目を見開いたまま、予想通り固まった隼に、苦笑しながら男がちょっと待ってろと席を外した。
お前もちょっと来いといって、周二が連れて行かれた。

***

「ぐふっ!」
周二が若い男の鳩尾に、軽やかに膝を叩き込み、男は部屋の隅まで飛ばされた。
「おまえ、いたずらが過ぎんぞっ!」
「すっ、すいませんっ!あんま可愛いんで、ちょっとねんねに萌えちまって」
「まあまあ、そのくらいで……」
くすくす笑って、守役が身をすくめた。
「俺も言いたかないですけどね、今回は諦めた方が良いんじゃないですか?ありゃ、幼すぎて駄目ですよ。ねんねにもほどがある。下手すりゃここが壊れてお陀仏だ」
胸の辺りを、とんと叩いた。
「あ~!隼~っ!抱きてぇっ!」
苛々と頭をかきむしっていた周二が、ふと動きを止めた。
「おいっ、今、誰か来たぞ」
「え?そうっすか?」
周二は驚くほど耳がいい。
靴音がいくつか響いた後、ドアがノックされた。
「木本さん、ちょっとお話を伺いたいんですが、よろしいですか?」
「誰だ?」
「西山署の沢木です」
「やっべ!マル暴の沢木!」
「沢木さんっ!?あっ、ちょっとお待ちください。今、取り込んでて……」

床に転がされてぼうっとしていた隼が、聞き覚えのある声に顔を上げた。
「……ん?今の声って?」






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