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世良兄弟仇討譚 豺虎の秋月・1  

豺虎 (さいこ・あらあらしく強い悪人をたとえていう語)




藩御用達の大看板を上げる、回船問屋「相模屋」に新しく雇われた用心棒は、役者のような男伊達と評判だった。

背の高い男は、鍛え上げられた鋼のような薄い筋肉を地味な着物で包み、新陰流免許皆伝を名乗る兄の「瀬良弥一郎(せらやいちろう)」、一方は女と見まごうばかりの絢爛な花の風情で、男ながら懐剣も小柄(こづか)も使う、流麗な太刀筋の義弟を「瀬良笹目(せらささめ)」という。

平和な慶長時代、用心棒といえば、士官の道を閉ざされたむさくるしい食い詰め浪人か、貧乏旗本の部屋住みが小遣い稼ぎをするくらいで、実際大した職ではない。
この二人も大方は大店の威勢を誇る飾り物のような存在で、見目良い容(かたち)から、裏では色通の相模屋に入り込んだ男芸者と噂されていた。
だが、見た目に騙されて、うっかり侮ったものはけんもほろろな扱いを受けて、後悔することになる。
店の前で二人を揶揄したものは髻を落とされ、あるものは下帯を残して真っ二つに着物を斬られ腰を抜かした。

「ふっ……また、つまらぬものを斬ってしまった」

捕らえた万引きが居直ったのを、一閃で帯を切り落とした兄が呟く。
「斬鉄剣の使い手じゃないのですから、兄上」
くすくすと優しげな顔の義弟が笑う。

もし父親が健在ならば、嫡男とは話をすることもないはずの側室腹の義弟だった。
5年前、勘定吟味方の父親が運悪く辻斬りに遭ったその後で、遺書が一通見つかった。
遺書を隠した母親は、密かに嫡男弥一郎に父の残した仇の名を数名明かした。
辻斬りは悪事が露見するのを恐れた仇が、口を封じるために行ったのだという。
わが身に迫る暗殺を予見していた父は、真実を遺書としてしたためていたようだ。
「そなたは背中から太刀を受けた父上の、恥をそそがねばなりません」
「はい。母上」

父が背中に受けた傷は逃げ傷とされ、不名誉なことと兄弟は家中(かちゅう)からそしりを受けた。
武士にあるまじき行為、腰抜け侍と申し開きも無いまま家名は断絶され、余りに血も涙も無い処断だった。
父は剣の腕前こそ人並みだったが、決して卑怯な人間ではなかったと、幼い弟達を連れて弥一郎は城代家老に懸命に言上したが、一度決まった沙汰は覆ることはなかった。
冷酷な裁可に歯噛みしながら、弥一郎は菩提を弔うために剃髪した母に言う。
「母上。仇討は弥一郎独りにて致しとうございます」
「いいえ弥一郎。、側室腹とはいえ笹目と月華は父上の血を引く男子(おのこ)、必ずや力になりましょう。母はこの日のために二人を育てた気がいたします。家名再興の為に、兄弟そろって力を尽くすのです」
「はい」
「まずは、これをお討ちなさい」
母が指し示した先には、回船問屋「相模屋」の名があった。
「相模屋……」
その名があるということは、清廉潔白な父は、おそらく抜け荷に加担せよという誘惑を蹴ったのだ。
役人が目を零せば抜け荷は膨大な利益となり、父の上司はさっさと賄賂を受け取り、おそらく勘定吟味役であった父は目こぼしを断ったばかりに惨殺されたと容易に想像がつく。
死後の扱いの酷さを見れば、おそらくは藩中枢に糸を引いているものが居るのだろう。
何故、もう少し上手く立ち回らなかったのかと口にはできないが、わが父ながら愚鈍なまでの実直さに眩暈すら覚える弥一郎だった。

「幼い月華(つきか)にも、重々いい含めておりますから、揃って相模屋にお行きなさい。相模屋は十の年まで大奥で過ごした男で、大層な色好みだそうですよ。稚児好きなら月華を、あてがっておやり」
「母上……」
腹を痛めて生んだ我が子を人身御供として差し出せという母親に、目を剥き絶句した兄、弥一郎と義弟、笹目だった。
既に母も武家の妻女として、鬼となって生きる覚悟を決めていたのかもしれぬ。

「月華(つきか)はいくつになるのだった?」
「後、二ヶ月で十になります。兄上」
笹目が答えた。
「あんないたいけな子どもに、大店の相模屋が食指を伸ばすはずがないと思うが……」
「兄上。ところが稚児好きというのは、そういうものらしいですよ」
「そういうものか」
「ええ。無垢なものを破瓜するのを、無上の喜びと感じるそうです」
側室腹の笹目だけではなく、末の弟も自分のすべき事をきちんと理解する聡明な子どもで、お家の再興を等しく願っていた。
「兄さまに手を貸してくれるか?月華」
「あい」
頷くその姿は、露を含んだ撫子のように淡く儚い風情で、いとけなく愛らしかった。






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