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杏樹と蘇芳(平安) 7 

平安のころの話である。




次郎は雄芯から溢れた白い精を、杏樹の差し出した布に吐き出し、大きく一つ息を吐いた。
栗の花の匂いが、辺りにどっとたち込めた気がする。

「いずれは、これをお前に受け止めてもらう」
「は……い」
「わしの指に喰らい付いた、そのきつい穴を広げて使う。お前は何も知らないだろうが、女子と違って、男の場合はそこを使う」
「はい」
「いつかは水飴を舐めるように、わしの物を口淫せよ」
「……今宵はお役にたてず……申し訳ございませんでした」
杏樹は慄きながらも深々と頭を下げた。
自分の置かれた立場を知る、利発な子供だった。
「殊勝なことを言うの。愛い杏樹、気にせずとも良い。今日はゆっくり休め。おいおいと教えて進ぜる」
今日は休んでもよい、そう言われて杏樹が素直にほっと安堵の息をついたのを見て、次郎は声を上げて笑った。
杏樹は、はっと気づき頬を染めうつむいてしまった。
本当は内心、怖くてたまらなかった。
それほど股間にそびえる次郎の一物は、隆々として杏樹を狼狽させていたのだ。
あのような物が、自分の後孔に入るはずはないと、想像しただけで恐ろしくて心が冷えた。
次郎が優しかったのが、杏樹にとっては何よりの気休めにはなったが、いずれは受け入れることになるだろう。
胸に置かれた先行きへの不安の重石はますます重くなり、杏樹を悩ませた。
「では、次郎さま。今宵はこれにて、休ませていただきます」
「待て、杏樹。これからはこの部屋がおまえの部屋だ。奴婢の部屋へ戻らず、ずっとここに居よ」
「ここに……」

館の主、山椒大夫の弟に気に入られるということは、弟が置かれた待遇さえ良くなることと杏樹は知っていた。
これから先も出来ぬ我慢をし、決して山椒太夫と次郎の機嫌を損ねぬように館で暮らすことが、大切な弟、蘇芳の為になる。

いつかは自由の身となり、父の流された筑紫の地へ弟を連れてゆく。
父の元で新しい烏帽子を戴き、弟が晴れの元服(成人)を迎えることが、今は杏樹のただ一つの願いになっていた。
杏樹は歯を食いしばり、人買い山椒大夫の弟の前に手をついた。
14の年で身体を開き、人身御供としてこのままこの館の奥で、男妾として媚びへつらい暮らして行く。
覚悟を決めた杏樹の上から、はらりと一枚の女物の着物が掛けられた。
一斤染( いっこんぞめ)の華やかな花色に驚いて、杏樹は目をみはった。
杏樹の災禍は、日陰者の辱めだけでは終わらなかった。
「これは?」
「似合うぞ、杏樹。明日からは、それを着て食事の給仕をせよ」
「……はい」
否と口にはできなかった。
父は殿上人に仕えた、役人であった。
その息子が女物の着物を羽織り、人前で姿を晒すことがどれほどの屈辱か、次郎は知っていた。
しおらしい杏樹がいつしか気が変わり、逃げ出したりせぬように、杏樹に満座の中での恥をかかせるつもりだった。

芝を刈りに行く弟の前に、現れた杏樹は髪を下ろして紅を引いていた。
まるで新妻のような美々しいこしらえをした兄は、ぎこちなく弟に「蘇芳」と声を掛けた。
薄い笑みさえ浮かべた杏樹の、悲しい心のうちなど弟に判るはずもなかった。
「蘇芳。鋭い鎌で、指を切らぬようにね。慣れるまでは、萱(かや)を刈るのも少しずつで良いと次郎さまが……」
蘇芳はきっと責める視線を向けた。
「奥羽五十六郡の太守、岩城判官正氏の一族、蘇芳。人買いの妻女に、親しくきく口など持っておらぬ」
「蘇芳……兄さまは……」
「蘇芳に兄上などおらぬ!かどわかされる時に、兄とは別れた!」
蘇芳は踵を返し、萱を入れる籠を抱えるとその場から駆け去った。
杏樹は膝から、その場に崩れ落ちた。
「蘇芳」

いつか、今の苦しみが思い出話になる時が来るからと、懐の観音様を握りしめた杏樹だった。






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