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命 一葉 (いのち ひとは) 1  

激しい動乱の時代を超え、江戸が東京と名を変えて、まだほんの僅かしかたっていないころの話だった。

ほんの少し前まで武士が大小を腰に差し、将軍様が江戸城に居たことも、移り気な人々は忘れかかっている。
東京では、ざれ歌がはやり、散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がすると、洋袴の子供達が歌う。

幕府に加担した北国の小藩に住む者達は、今や帝に弓を引いた裏切り者よと言われ、日本中のどこにいても肩身を狭くして過ごしていた。

まともな産業の無い貧しい北国出身の、相馬直正(そうまなおまさ)、濱田一衛(はまだかずえ)の二人は、武家の出ではあったが国許での暮らしが立ち行かず東京へと流れてきた。
二十歳になったばかりの直正は国を捨て、十六になったばかりの一衛を連れて、共に新天地を求めた。

だが東京で職を探そうにも、北国の出身と告げれば、お上に仇なした輩を雇うわけには行かないと、どこへ行ってもけんもほろろに断られる。
国許から持ってきた僅かな路銀もそこをつき、宿のないままさまよう街で一衛が血を吐き、とうとうここで行き倒れかと進退窮まってうずくまっていた時、声をかけられた。

「申し、申し……どうやら、北国の方とお見受けいたします。あなたがたの、お国許はどちらで?」
「会津だ」

いまさら、嘘をつく気もなかった。
藩主、松平容保公は正義の貫き方を間違えただけなのだ。
敵と味方、佐幕と勤皇、どちらにも国を思う正義があり、負けたほうは賊軍と呼ばれ排斥された。
唯一つの良心にしたがって、挙兵した悲劇の主を、心あるものは悲運と気の毒がって悪くは言わなかった。
声をかけてきた男は、京で帝に近く仕えていたもので、あれほど帝にお心を砕いてくださった会津様のご無念やいかばかりかと……、さめざめと涙をこぼした。

「殿が聞いたら、さぞかしお喜びになるだろう」

相馬直正(そうまなおまさ)、濱田一衛(はまだかずえ)の二人は、胸を熱くして見知らぬ男を眺めた。
今や、朝敵となった会津さまこそを、心底頼りにしていたのに哀れなことだと、先の帝は病の床で心痛に打ち明けたそうですよ、と男は語った。

「お連れさまは、どうやら胸の病のご様子。ささ、しがない家業でございますが、空き部屋を宿の代わりにお使いくださいまし。決して銭など要りません。会津の殿様の心意気に感服したものとして心ばかりのご接待。どうぞ、どうぞ」

男は京から流れてきた公家崩れの「嶋原屋」という郭の楼主だと名乗った。
柔らかい物腰ではあったが、心の内では邪まにほくそ笑んでいた。
抜け目なく一衛の美貌を見やり、これは商売に使えると目を細めていた。おくびにも出すことはない嶋原屋は、公家の出といいながら、狡猾な商売人であった。

「諸々、まことにかたじけない」

数日来まともな飯も食っていず、やっと一衛に温かいものを食わせられると、田舎育ちの直正は地獄で仏にあった心持で、膳に向かって手を合わせ薄く涙を浮かべていた。
長旅の疲れからか、生来丈夫ではない一衛が、病を得て時折苦しそうにしているのを見るのがつらかった。
咳き込む痰に血が混じり、筒袖に滲みだらけの手ぬぐいを隠していたのも知っていた。
吐いた息の腐りかけた臓腑の匂いに、おそらく長くはあるまいと、若い主従は承知していた。

「お仕事を探す足手まといになっては、いけません。お熱のある一衛さまは、こちらでお留守番をしてお待ちになるがよろしいかと。きっと、良いお仕事をこの嶋原屋も気にかけて進ぜましょう」
「何から何まで世話になって、嶋原屋どのには礼の言葉もござらぬ」
「なんの、なんの。一衛様は嶋原屋がお大切に、お預かりいたします」

嶋原屋の主人と直正の会話を、どこか浮かぬ顔で一衛が聞いていたのに、直正は気が付かなかった。
仕事の紹介という名目で体よく直正を外に見送って、直正の姿が見えなくなると、嶋原屋はそのままぐいと一衛の腕を掴み振り返った。

「真に、北国の方たちは、素直で疑うことを知らぬ律儀な方が多うございますねぇ。さてと、一衛様、お分かりですね。あの実直で無骨な直正様には、出来ぬご相談が今宵もございます。嶋原屋の裏のお仕事を、お願いできますか?」
「……断れば以前のように薬を使うのだろう?どうなと好きに使えば良い」
「さすがはお武家様。腹をくくると眼光が鋭くお強うなりますね」

一衛の双眸がきつく嶋原屋を見据える。
凛とした佇まいは、いまや過去の遺物となった凛々しい武家のものだった。

「お若いのに聞き分けがよろしくて、こちらも助かります。直正さまには、精々ご内密にしておきましょうねぇ……薩長の皆様方は、一衛様の……この吸い付くような真白い雪の肌に、魅せられたようでございますな。」

ぐっと腰を引き寄せられ、口を吸われた。
直ぐに裾を肌蹴られたが、抗おうにも既に体力はなく、ここを出てゆけば、直正の決まりかけた仕官の口も失うだろう。
戦に負けるということは、自尊心も失うことなのだと既に自覚していた。
藩公とて、緋毛氈の上に頭を下げて血涙をこぼした。
自分にも我慢できないはずはない……そう、思っていても下を向けば無意識に頬が濡れるのに、自分で驚いた。
一衛の病状を心配しながら、足を棒にして職探しに励む直正を、楼主と共に騙し裏切っているようでつらかった。

「さあ、一衛様。御辛くないように、この嶋原屋が、後孔を程よく弛めて進ぜましょう」
「あっ。わたしに、触るなっ……ああっ」

簡単にうつぶせにされ、身の削げた尻を割られた。
黄金色の菜種油が、たらたらと垂らされ奥へと送られてゆく。

「初花を頂いたときはつつましいご様子でしたのに。さすがにここに何本も咥えるうちに、赤い華が開きましたな」

思わず赤面し、顔をそむけた一衛の上に、言葉で嬲りながら嶋原屋がのしかかり、裏から膝を割った。







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