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遠山の銀(しろがね)と銅(あかがね) 3 

ぐったりと、まだほんのり温みのある山猫の死骸を抱えて、銀は山神さまの前に立った。

「どうしたね、銀」
「お願いです。神さま。俺に返魂法を教えてください……」

ふるふると全身を瘧のように震わせながら、お使い狐は必死だった。

「こいつ、まだ何も楽しいこと知らないんだ。冬山の深雪の暖かさも、春の雪解け水の冷たさも。俺と同じで、親のぬくもりも、なんにもっ!」

銀の生まれて初めての涙が、ほろほろ溢れた。

「銀。分かっているだろうが、そいつは最大の禁忌だ。願いを聞くことはできないよ」
「だったら!俺の命を、あかがねにやって下さい。命の数の帳尻さえ合えば、地獄の鬼にも言い訳が立つ。」

ぽん……と、小さな糸手まりが転がってきた。
紅い着物の、童女がふふっと笑った。

「お使い狐。さっきは、殺生石をありがとよ」
「さっき……?……もしや封印された白面金毛九尾狐さま?」
「あちらの山、こちらの山と、おまえが石の欠片を運んでくれるから、この通り小さいながらも形になった。話を聞いたよ。なぁ、山神。狐の願いをかなえてやってくれないか?」

銀の口が、禁忌をねだろうとしているのを見て、とうとう山神がふっと返魂の経を唱えた。

「銀。どうやら、まだ彼岸に行き着いていなかったようだ。返って来たよ」

ももけた糸だまのような山猫が、にゃあ……と力なく啼いた。

「だが、この傷ではすぐに事切れる。どうするね?おまえの妖狐の力、注いでみるかい?」

殺生石を運んでくれた礼じゃ、わしも手を貸してやろうと童女がいう。

「もう空を飛ぶことも、風に乗ることもできない。妖狐の力をやってしまえば、ただの狐にもなれないがそれでも良いか?」
「はい」
「山の奥で人型になって、化け物狐として一人で暮らすかえ?元の姿に戻るには、かなりの時間がかかるだろうよ」

銀にはそれでも良かった。
この小さな山猫が息を吹き返してくれるなら、自分は山奥で、半身が人で半身が狐の化けものとなって一人生きてゆくのも厭わない。
どうせ、これまでずっと長い間、一人ぼっちだったのだから。
大きく、銀は頷いた。

「どうか、お願いします。あかがねを助けてください」

術を唱える白面金毛九尾狐と山神の姿が闇に飲まれ、銀は天地の隙間に投げ出された。
風が逆さまに吹き上げ、星がばらばらと身体に当たる。
海に寄せる波は、灼熱の熱風だった。

昼と夜の生まれるところ。
真理の源。
命が紡ぐ時間の狭間で、銀は落ちていた柔らかいあかがねの魂を拾った。

「しろがね」

一番はじめの、術をかけ損ねた大きめの人型になった山猫。
銀は、二本のしっぽを失って、ただの化け物狐になっていた。

「しろがね。すき。ふさふさしっぽ」

ほろり……と、化け物狐がコンと泣いた。

「山猫が恋しがって泣くから、面倒を見ておやり」

どこからか山神さまの声が響く。
銀の願いは、もう叶っていた。

『一人ぼっちじゃなくなりますように。』

「こらーーっ!あかがね」
「しろがね。すき。ふさふさしっぽ」
「しっぽ、絡めるなーーーーっ!」

山の秋は深い。







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