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小説・約束・38 

「一緒に来て。助けたい奴がいるんだ。」

「誰?」

「森に住む、幽霊。」

早足で歩きながら手短かに説明した。

「へぇ、やっぱりいたのか。その子の病気って何なの?」

「胸。」

「ああ、それであそこに一人でいたのか・・・」

矢継ぎ早に、質問に答えながら良平は一番大切なことを言おうと思った。

「続木男爵の別荘だったんだよ、あそこ。でね。その子は、閉じ込められてたみたいなんだ。」

「何で?うつるから隔離されてたんだろ?」

秘密を守れるかと、良平は真剣に問うた。
勝次も、向き直って答えた。

「俺、良平のことは特別だと思ってるんだ。母ちゃんの葬式の事もそうだけど、おまえのことだけは、何があっても信用する。」

「僕も、勝次のことは一番の親友だと思ってる。でないと、言えないこんなこと。」

入り口の、深い草むらにしゃがみこんで、声を潜めた。
良平は勝次に思いきって告げた。

「僕が助けたい奴は、混血(あいのこ)なんだ。しかも、敵国。米国人の血が混じってる。」

そうかと、勝次は真剣な眼差しで頷いた。
とうとう、良平は言った。

「その子、青い眼なんだ。」

これ以上、見開けないほど大きな目をして、勝次は良平に囁いた

「僕ら、囚われのお姫様を助ける、正義の味方ってところだね。」

本当はお姫様じゃないけど、会えばわかるだろう・・・
どちらかというと、あの子は人形みたいだけど・・・
陽が高いうちに来たのは初めてだったが、森がうっそうとしているせいだろうか、夏なのに洋館自体にじっとりと湿気がまとわり付いているように見える。
そっと気配を覗った・・・
凛斗は、大丈夫だろうか。
又、酷い目にあっていないだろうか・・・
昨夜の哀れな姿が思い出された。

「凛斗・・・」

小さな声をかけてみた。
ややあって、内側からキッと擦れる金属音がして、そっとガラス戸が開いた。

「叔父様?」

眼にまかれた白い包帯は、夜しか解くことを許されないで、「秘密」を守っている・・・。

「良平だよ。凛斗。」

「良平。」

思わず、凛斗の声が弾んだ。
勝次は、言葉を失っていた。
そっと忍び込んで、初めて明るい室内をまじまじと眺めた。
人が居住できるような状態ではなかった。
隅のほうには、蒲団ができそうなほど綿ぼこリが積んでいた。
足元にある、アルマイトの食器は酷く汚れ、誰が持ってきたものか、薄い粥のようなものが少し残っている。
こんな粗末な物を食しているのかと、思わず涙がこぼれそうになった・・・
でも、今はそれどころではなかった。

「落ち着いて聞いて、凛斗。大変なことが起きたんだ。」

「大変なこと?」

「続木男爵が、死んだ。」

「叔父様が・・・」

動揺してへたり込んでしまった凛斗を、良平は懸命に励ました。

「凛斗はここにいちゃいけないと思う。誰かに見つかったら、大変なことになる。」

凛斗は、胸を押さえて、浅く何度か息をついた・・・

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