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波濤を越えて 第二章 24 

「嬉しい……」

正樹の頬を、ぽろぽろと透明な雫が転がってゆく。
溢れた涙が、心に刺さった氷の棘を溶かし、今の正樹の心はとても安らかだった。
抱きしめた正樹の顔を覗き込んで、フリッツが笑いかけた。

「一緒に生きる決心はつきましたか?」
「うん……フリッツがいないと、僕は誰と一緒に居ても一人だから……」
「さあ。そろそろ行きましょうか」
「え?……どこかへ行くの?」
「二人で、正樹の生まれた家に行きます」
「何をしに?」
「挨拶に行きます。わたしはこれから正樹と共に生きるのですから」
「そんな……」

驚愕の余り、棒を飲んだようになった正樹の背中を田神が押した。

「ここまで来たら、フリッツの思う通りにしてみたら?驚くかもしれないけれど、案外うまくいくかもしれないし、一生に一度くらい、正樹が親にわがまま言ったって良いじゃないか」
「だって……フリッツが嫌な思いをするかもしれない。お父さんは二人でいるのを決して認めてくれないと思う。フリッツが傷つくってわかっている場所へは行かせられないよ」

意外なことにフリッツは諦めなかった。

「大丈夫です。正樹をこの世に送り出してくれた人たちですから、きっと分かり合えます」
「フリッツは父を知らないから、そんなことを言うんだよ。父は自分の思う通りにしない人間は嫌いなんだ。僕は自由になるために家を出たのだけど……結局は最後まで……今だって父の手のひらから出られないんだ」
「さあ、行きますよ。当たって砕けろです」
「木っ端みじんって言葉もあるんだよ」
「いいから、行きましょう」

渋る正樹の手を引いて、フリッツは正樹の実家へと向かった。
見知らぬ外国人の訪問に、正樹の両親は当然のように玄関で立ち尽くしてしまう。
フリッツはいきなり玄関に土下座し、流暢な日本語でこう言った。

「正樹さんをください。必ず幸せにします」

母は脳貧血を起こしてふらつき、父は鬼のような形相で取りあえず周囲に他人の目がないか見渡してから、玄関の扉を閉めた。
そして、深々と頭を下げるフリッツに詰め寄った。

「……き、君は何者だ。正樹は入院することになっている。わけのわからぬことを玄関先でわめいていないで、今すぐ帰りなさい。無礼な訪問は迷惑だ」
「どうか話を聞いてください。わたしはドイツの陶芸家で、フリッツと言います。ローテンブルグの陶芸マイスターです。正樹さんとは美術館で知り合いました。わたしたちは互いを知って、共にいるのが最良と考えました。」

父親は動揺を隠せない。必死に否定の言葉を探していた。

「ふざけたことを言うな。何が最良だ。勝手に家を飛び出して、帰って来たかと思ったら、病気だというじゃないか。くださいと言われて、はいそうですかとどうして言えるんだ。犬猫の子供じゃないんだぞ。まずは病院できちんと治療を受けさせる。」

フリッツは下げていた頭を上げて、正樹の父と対峙した。




本日もお読みいただきありがとうございます。


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