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波濤を越えて 第二章 11 

自分に絵があるように、直にも好きなものを大切にして欲しいと、正樹は思った。
後悔をしない生き方は難しいけれど、それでも自分で選択した生き方をしていれば、立ちはだかった困難にも勇気をもって立ち向かえる。それは自身が経験済みだった。
ちゃんと伝えても、直に理解できるかどうかわからないが、正樹は試みた。
フリッツが自分にそうするように、懐の心もとない存在を、ぎゅっと抱きしめた。

「直、あのね……」
「うん……」
「直は、そのままでいいんだよ。直はこれからも自由に生きるんだ」
「自由に?お父さんが駄目って言っても、お菓子作ってもいいってこと?」
「そうだよ。直の思った通りに生きていいんだ。誰が反対しても、僕はきっと直の応援をする。大きくなってどうすればいいか迷ったら、自分の心に聞いてみて。一番そうしたいって方を選ぶんだよ」
「……まあちゃんも?」
「僕もそうして生きてきたよ。例え誰かを傷つけるようなことになっても、自分を曲げちゃいけないときはきっとくる。直が自信をもって、真っ直ぐに生きていたらきっとみんないつかはわかってくれる。本当の直を好きになってくれる人が、絶対に現れる」
「本当のぼく?」
「そうだよ。僕にだって現れたんだから。直も好きなものを好きだと言っていいんだ。好きなものを好きって言える直を、きっと好きになってくれるよ」
「そうかなぁ……」

正樹の言うように、父がお菓子作りを簡単に許してくれるとは思えなかった。
直の心にその時、正樹の気持ちが響いたかと言えばそれはわからない。ただ、その後、会うたび幾度となく繰り返された正樹の言葉は、いつしか直の内側に刻み込まれ生きてゆく指針となった。
好きなものを一途に好きでいる事は、簡単そうでいて、大人になるにつれ難しくなってゆくが、直は諦めなかった。
父の期待を裏切って、自分で見つけた道を、正樹と同じように歩いてゆく。やがて結果を出して認めさせるまでになるが、それはまた違う話で完結する。

直は笑顔で手を振った。

「まあちゃん。また来てね」
「うん。直に会いに来るよ。元気でね」




本日もお読みいただきありがとうございます。
直の姿に、自分を重ねてしまった正樹です。


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