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波濤を越えて 第二章 7 

母の淹れた緑茶は、優しく胃に染みてゆく。

「僕のものなんて、何もかも捨てられてしまっていると思ってた……」
「どうしてそう思うの?」
「……期待を裏切ってしまったから。……ひどい言葉で傷つけてしまったし、許されないと思ってた……」
「傷つけたのは、私たちも同じだわ」
「……え?」
「感情のまま、あなたを否定してしまったわ。驚いたから……っていうのもあるけれど、今日あなたが来てくれてよかった」
「僕も……勇気がなくてごめんなさい」
「一度、美術館まで話をしようと思って行ったのよ。でも忙しそうに働いていたから、帰って来たの。知らなかったでしょう?」

本当は気づいていたのだが、敢えて無視をしたのだとは言い出せず、正樹はあいまいに微笑んだ。

「正樹」

思わず、居ずまいを正した。
目の前には保険証書と、通帳と印鑑が置かれていた。

「これは、正樹のものよ。自由にお使いなさい」

開いた通帳には、かなりの金額があって、正樹は目を瞠った。
数字の羅列が、長い間、定期的に積み立てられたものだと示していた。申し訳なくて、涙が出そうになる。

「……こんなにたくさん、貰うわけにはいかないよ。保険を使わせてくれるだけでも、十分ありがたいんだし……それに、あの大したことないんだ。今回のは、検査入院みたいなものだから」
「そうなの?」
「そうだよ。一応、検査だけしておきましょうってことだから心配しないで。……あの、お父さんにも心配しないでって伝えてください」

母のためにも、せめて優しい嘘をつきとおそうと決意していた。
いつかはその日が来るのだとしても、息子は元気で離れて暮らしていると思ってくれた方がいい。

「じゃあ、そろそろ帰るね。正直言うと、生活するので精いっぱいで、余裕がないからお金は助かるんだ。いつか、きっと返すから少しの間だけお借りします。」
「それは正樹のお金だから、遠慮しないで使っていいのよ。あぁ、そういえば、本家のお母さんが正樹に長いことあっていないわねって言っていたから、顔を出しに行ってらっしゃい」
「挨拶してから、帰るよ。直にもずいぶん会ってないし」
「体に気を付けるのよ」
「うん。ありがとう。お母さんも気を付けて」

長く離れていても、これが親子というものだろうか。
最初のぎこちなさが嘘のように、正樹は母親と自然に会話をしていた。
そして……母は、最後に意を決して正樹に問うた。

「正樹。誰か……お付き合いしている人はいるの?」




本日もお読みいただきありがとうございます。
実際はこんな風に、理解しあえるのは難しいと思います。いろいろな体験談などを拝見しますと、母というのはたとえどんな子供でも最後には認めてくれる存在のようです。
そこに至るまでの葛藤も相当なものがあると思うのですが……


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