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波濤を越えて 第二章 6 

久しぶりに会った親子は、ぎこちなく言葉を交わし、互いの本心を探ろうとしていた。

「とにかく中にお入りなさい」
「……いいの?」
「自分の家でしょう。何を言っているの」

母は、怒ったように語気を強めた。
思わず、父親に二度と敷居をまたぐなと言われているけど、上がってもいいのと皮肉を言おうとしてやめた。

玄関には、正樹がいた時と変わらずに、季節の花が飾られている。自分がいなくても、何も変わらないと思いつつスリッパをはこうとして、ふわりと綿ぼこりが舞ったのに気づいた。
几帳面な母にしては、珍しいことだった。
埃は、すぐに風邪をひく正樹の気管支に良くないからと、こまめに掃除をしていたように思う。

「何?」
「あ、うん。玄関の花とか、変わらないなって思って……」
「7年もたつのよ。変わらないわけないじゃない」
「……そうだね」
「私もお父さんも老けたわ」
「そんなことない。お母さんは……若いよ」

ふふっと母は笑った。

「お世辞が言えるようになったの?」
「思っただけだよ……」

確かに年を取ったと思う。
正樹は心の中で精一杯、伝える言葉を探った。
どう言えばいいのか、方法がわからない。

「あの……。学費を出していただいて、ありがとうございました」

正樹は両親が大学の学費を出してくれたことに、堅苦しく謝辞を述べ頭を下げた。

「今は、美術館で働いているのね」
「うん。学芸員になりたいんだ。今は学芸員補として、非正規雇用で働いている。8年間経験を積めば学芸員の資格が取れるんだ。後、もう少しなんだよ」
「そう。正樹は絵ばっかり描いていたものねぇ。なんだったかしら、誕生日に買ってくれって言った石膏の名前……」
「マルスだよ。ボルゲーゼのマルスの胸像を買ってもらったんだ」
「思い出したわ。正樹の同級生はみんな、ゲームが欲しいっていう話をしていたから、玩具屋さんに予約いれていたのを取り消したのよ」
「今も大切にしているよ。ずっと一緒にいるんだ」
「そう……」

母は、お茶を淹れてくるわと言って、席を外した。

正樹は部屋を見渡した。
居間の鴨居には、正樹の貰った賞状がぐるりと飾られている。懐かしい風景だった。
ひときわ目立つ額の中には、正樹が新聞社の賞を獲った両親の絵が飾られていた。
県民会館で賞状をもらった時は、両親ともに会社を休んで揃って出席してくれた。
いつもより不機嫌に見える父に遠慮した正樹に、本当は照れ隠しに仏頂面をしているのよと母がこっそり教えてくれた。会社でも自慢していたと聞いて、くすぐったかったのを覚えている。
初めて父に認めてもらったような気がして、嬉しかった。

愛されていた記憶が、そこかしこに見つけられる。
家を出る前、火を噴く様に激昂させ二度と帰らないと誓ったはずだったのに、この感情を何といえばいいのだろうか。




本日もお読みいただきありがとうございます。
別れた時のまま、止まっていた家族の時間です……(´・ω・`)


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