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波濤を越えて 第二章 3 

やがて看護師が「相良さ~ん」とカルテを手に、待合室まで呼びに来た。
「医師からの説明がありますから、第二診察室にどうぞ」
「はい」

正樹は振り向いて手を振ろうと子供を探したが、もうそこにその子はいなかった。
看護師に「あの……さっきの子は?」と問うたが、気づいていなかったのか返事は帰ってこなかった。

「失礼します」

主治医の逢坂は、真剣な表情でじっとカルテとCT映像を見つめていた。

「はい、どうぞ~。先月ぶりだね、相良君」
「よろしくお願いします……」
「うん。もっと早くに会いたかったなぁ」
「?……あの?」
「相良君、可愛いからさ、目の保養だったんだよ~。なんで、もっと早く診察に来なかったの?」
「予約日が今日だったので……」
「あ、そうか~」

先生が苦手だからです……とは、さすがに口にはしなかったが、正直、こんなタイプは好きではなかった。医者のくせに、平気で軽口をたたく。ふざけているのかそうでないのか、わからない。
昔から、腕はいいと評判だった。君も検診を受けておいた方がいいねと、上司に言われ、顔なじみの病院を訪れただけの事だ。
簡単な検査だけを受けたのだが、胃の検査で引っかかった。
食欲のないのはいつもの事なので、別段気にもしていなかったのだが、最近になって時折苦水が上ってくるようになって、さすがに少し気になっていたところだ。

「あの……胃潰瘍とかありましたか?」
「何でそう思うの?自覚症状とか有ったのかな?」
「少し……時々、胃のあたりが痛くなったりしていましたから」
「相良君は、親御さんと一緒に住んでいるのかな?」
「いえ……僕は一人暮らしです」
「そうか」

くるりと椅子をまわして、医師は正樹の方を向いた。

「私としては、できればご家族同伴の上で、今後の治療について話をしたいと思うんだけど、どうかな」

笑みの消えた顔に思わずどきりとする。

「あの……僕は事情があって、家を出て暮らしています。ですから、気になることがあるのなら、教えてください」
「ん~……そうか。ま、事情があって、身内の居ない人もいるからね。でも、相良君、急を要するような仕事にはついていない?」
「今は、非正規職員として、美術館で働いています」
「そう。でも、できるだけ親御さんとか、ご兄弟とかに一緒に話を聞いてほしいんだけどなぁ」
「僕には兄弟はいません。ですから、話を聞かせてください。大丈夫ですから」

医師は良い顔をしなかった。

「どうしてもというなら、君に話をしてもいいけれど……入院するのには保証人もいるし、君が話をするより私がきちんと話をした方がいいんじゃないかと思うんだけどね」
「僕は……先生が説明をためらうほど重い病気なんですか?」

否定の言葉はもらえなかった。




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