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波濤を越えて 第二章 1 

穏やかな日々が流れていた。

フリッツの瞳と同じ色の高い空を見上げて、正樹はふっと息を吐いた。
相変わらず美術館で、非正規職員の仕事を続けている。
変化と言えば、生真面目な正樹が上司に信頼され、定年間近の職員の仕事を少しずつ任されていることくらいだろうか。
職員の空きができれば、着実に実績を積んでいる正樹は、学芸員として美術館に優先的に配属されるはずだった。周囲も正樹が職員として入ってくるのを、待ってくれていた。
好きな仕事はとてもやりがいがあったが、時折フリッツのいない寂寥感に襲われることがある。
幾度かメールでやり取りをしたが、フリッツはとても多忙なようだった。
忙しい時間をフリッツが自分の為に割くのを、慮った正樹は、次第にメールの回数を減らした。必ず返事をくれるフリッツが、無理をしていると感じていた。
互いを思いやりながら、日々に忙殺されているフリッツと、少しずつ離れてゆくのを正樹は感じていた。

ふと携帯電話の着信に気づいて、声を張った。
沈み込んだ声で出てしまえば、心配させてしまうとわかっていた。

「……田神?どうしたの?」
「飯、行くか?」
「何言ってるの。忙しいくせに」
「ははっ、まぁね」
「茉希ちゃんが、名簿がまだできてないって言ってたよ」
「ばれてるなぁ」

田神は、長らく付き合ってきた恋人の茉希と間もなく結婚する。毎日、式の準備に追われているはずなのに、こうして連絡をくれるのは正樹を放っておけないからだろう。
相手の茉希は、幼馴染で正樹も顔を知っていた。快活で姉御肌の女性で、正樹にも親しく声をかけてくれる。幸せな二人を見ていると、気持ちが温かくなる。

「今日は、食事は付き合えないよ。この間の検診の結果を聞きに行かなきゃならないんだ。ほら、駅前の長浜病院」
「ああ。そういえばこの前、集団検診で、何かに引っかかったって話をしていたな。大丈夫なのか?」
「形だけのものだよ。僕が元気なのは田神だって知っているだろう?」
「そうだな。じゃ、また今度誘う」
「うん、また誘って。茉希ちゃんも一緒にね」

元々、正樹は線が細い。
大食漢ではないし、食べ過ぎるとすぐに腹をこわす。
いつもの事と捨て置いていたが、時折不調で食事が喉を通らないことがあった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
フリッツと遠く離れた正樹は、夢に向かって着実に日々を過ごしています。
……でもちょっと体調不良なのです。(´・ω・`)
田神君は結婚するので、正樹の事ばかりにかまけていられないみたいです。
そりゃ、そうよね。

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