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波濤を越えて 43 

優しく包まれて、正樹も力を抜いてゆったりと身を預けた。
どれほど名残惜しくとも、逞しいこの腕も厚い胸も、もうすぐいなくなってしまう……
そう思うと素直に、言葉にできた。

「誰かと一緒にいて、ゆっくり眠れたのも、キスをされるのが嫌じゃなかったのも初めてでした。フリッツの胸にこんな風に抱かれていると、心が……このあたりがじわじわと温かくなって、僕は独りではなくなりました。自分が、親鳥に守られている小さなひな鳥になったような気がします」

フリッツは背中から肩口に顔をうずめた。

「そう?……正樹なら小鳥になっても、きっと可愛い雛だね。どんな小鳥かな」
「えっと……つまり僕にとってのフリッツは、最初からとても信頼できる人だったんです。助けてもらったからかもしれないけど、この腕に守られているのは心地よかった……ありがとう……フリッツ」
「可愛い正樹。正樹はとても綺麗だから、みんなが欲しがったんだと思います。本当の正樹を誰かが知れば、すぐに恋人になって寂しくなくなるかもしれないけど……正樹が誰かのものになってしまうのは、きっとわたしが寂しいです……」
「本当の僕……?」
「正樹は兎のように臆病に見えるけど、本当はそうではないでしょう?」

正樹は内心どきりとして、フリッツを見上げた。見透かされた気がする。

「本当はロバのように頑固って言いたいんでしょう?田神にも言われたことがあります。正樹の中身は、見た目とはまるで違う、本当はとても強情だって」
「臆病で力のない小さな兎のように見えるけれど、本当の正樹は、真っ直ぐな強い心を持っています。意外性があって、とても魅力的です。恥じらうと肌が薔薇色に染まるところも刺激的です。正樹を作るいくつものパーツは、わたしの欲しいものばかりで出来ています。絵を描く正樹も、将来の夢を語る正樹も、腕の中で眠るあどけない寝顔もすべて愛おしい。本当にできるならずっとこの腕の中に、ずっと捕らえておきたいです」
「何だか、フリッツは僕よりも僕の事をよく知っているみたいですね」
「正樹にも、わたしをよく知って欲しかったです……」

あ……と小さく正樹がつぶやいた。
何?とフリッツが問う。

「あの……フリッツ……卵を買ってきてくれませんか?」
「卵?」

正樹は唐突にねだった。
不思議そうに頭を傾けたフリッツは、ふと別れの時間が来たのを思い出す。
互いから離れた隙間に、暖房のない部屋の冷たい空気が流れ込んだ。
それが現実だというように。

「卵はどこで買えばいいですか?」
「角のコンビニにあると思います」
「可愛い正樹が望むなら、今すぐ買ってきます」
「ありがとう……荷物を忘れないでね」

涙で滲んだ笑顔を向けると、正樹はフリッツの首に手をまわして、自分から最後の深いキスをした。
これでもう、会うことは叶わなくなる。

さようなら。
さようなら。
……愛しい人。




本日もお読みいただきありがとうございます。
別れの言葉を口にせずに、別れた二人です。いつかまた、会えるといいね。(´;ω;`) 「フリッツ……」
|ω・`)←ちょっとかわいそうだと思っている、このちん。

こんなに好きなのに、離れなければならないのが、悲しいね……(´・ω・`)

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