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波濤を越えて 38 

初めて会った時から、正樹は何も欲しがらなかった。
何故、何も欲しがらないのかと聞いたとき、正樹は欲しいものは目の前にあるからと答えた。
正樹の他愛のない言葉、しぐさ、眼差し、そのすべてが饒舌に自分を求めて語っていたと、フリッツは気づいた。
ぎこちなく愛撫に応えようとしたのも、まろみのない自分をみっともないと口走ったのも、先回りしてフリッツの欲しがるものを想像したからだった。
フリッツは、ああ、正樹……と、天を仰いだ。

「田神さん、約束します。わたしは必ず帰ってきます。それまで、どうか正樹をよろしくお願いします」

田神は頷いた。

「忙しいと思うけど、フリッツも体に気を付けて。時々は連絡してやって」
「ありがとう。そうします」
「二人で何を話しているのかと思ったら……。僕の事を話していたの?」

二人が遅いので戻ってきた正樹は、途中から話を聞いていたらしい。

「フリッツ。僕は進むべき自分の道を持っています。あなたもそうでしょう?だから、僕の事は心配しないでください」
「わたしは……正樹はわたしとの別れが平気なのかと誤解していました。笑顔だったから……」
「そんなこと……だって僕はフリッツの枷になりたくない……平気なわけない……」

出逢っただけで、幸せだったんです……と続けようとして、ついに正樹の涙腺が決壊した。

「田神のばか……笑って別れようって、せっかく決心していたのに……」

店の出口の脇で、正樹は膝を抱えて丸くなった。
小刻みに肩が震える。
一度堰を切ってしまったら、どうにもならなかった。
ぽんぽんと田神が頭を撫でた。

「余計なこと言ってごめん、正樹。精一杯我慢していたのにね」
「……うっ……うっ」
「帰りましょう、正樹」

正樹の本心を知ったフリッツは、正樹の肩を抱いた。
頬にそっと唇を寄せて、溢れる甘い涙を舐めとった。



本日もお読みいただきありがとうございます。
一生懸命強がっていたのに、田神がばらしてしまいました。
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「田神のばか……」「ごめん、ごめん」


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