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波濤を越えて 37 

「フリッツ、ちょっといいですか」
「……田神さん?」
「余計なことかもしれないけど、正樹の事を君の耳に入れて置こうと思って。」
「耳に?」
「あ、ごめんね。正樹の事を少し教えておこうと思ってと、言う意味……です」
「はい」

フリッツは流ちょうな日本語を話すが、急いて話をするには、時々もどかしい。
顔色を見て、言葉を選んだ方がいいかなと田神は思った。

「正樹は感情を表に出すのが、とても下手なんです。あなたの前では物分かり良くしているけど、本音と建前がまるで違うんです。わかってやってください。あいつは今、やっと立っているような状態です」
「正樹が……無理をしている?田神さんは正樹のことがわかりますか?」
「ええ、俺達は付き合いが長いですから。正樹は何も言わないでしょう?フリッツも正樹の物分かりが良すぎて、驚いたんじゃありませんか?」
「……正樹はわたしを一度も責めませんでした。まるで、この数日をなかった事にしようとしているのかと思えたくらいです。わたしは別れがすごく悲しいのに、正樹はそうではないのかもしれないと思ってがっかりしました……」
「やっぱり……。そんなことじゃないかと思っていました。正樹は一度、本心を打ち明けない方がいいと決めたら、自分の気持ちを抑え込んで口にしないんです……。頑固で不器用でわかりにくいやつなんです」
「田神さんは、正樹の事をとてもよくわかっているんですね。まるで……」

フリッツが、まるで恋人のようにと、言おうとしていると田神は気づいた。
思わず微笑んでしまう。

「勘違いしないでください。付き合いが長いから、互いをわかるというだけですよ。仲の良い兄弟みたいなものです。俺は正樹とは恋人同士にはなりません」
「なぜ?正樹は好みではありませんか?あんなに可愛いのに」
「え~と……」
「黒曜石(オニキス)の瞳も、珊瑚の唇も、ルーベンスの柔らかな薔薇色の天使のようです。正樹は、わたしが知り合った誰よりも美しくて賢い」
「そうですか……(高評価だなぁ)」

真剣に詰め寄るフリッツに、田神は吹きそうになった。

「信頼を裏切りたくないからです。正樹は真っ直ぐに俺を見つめます。俺が正樹にそういう感情を持たないと知っているからです。フリッツ。正樹はあなたのことを引き留めたいけど、自分にはそれだけの価値がないと思っています。あなたが国に帰ると伝えた時、正樹はどんな風でした?」
「正樹は曇りのない笑顔で、行ってらっしゃいと言いました」
「それは……感情のままに行かないでと言えば、あなたが困るのがわかっているからです。正樹は自分の事よりも、あなたにとって何が最良か考えるんです」
「……わたしが、間違っていたのか……」

フリッツは困惑の表情を浮かべた。

「正樹が、両親と上手くいかなかったことで、どれだけ自分を責めたか、俺は良く知っています。誰かを傷つけるくらいなら、正樹は自分が血を流す方がいい……と、考えるんです。だから、あいつはこれまでまともな恋愛すらしたことがなかった。マルスを除けば、本気で好きになったのは、たぶんあなたが最初です」
「マルス……部屋にある石膏像?」
「マルスは正樹の理想なんです。力強くて、愛にあふれていて、憂いがあるんだそうですよ」
「描き溜めたたくさんのデッサンを見せてもらいました。とても大切なものだと言っていました」
「そういえば、フリッツはマルスに似ていると言っていました。フリッツに出逢えて、きっと正樹はすごくうれしかったんだと思います。ね?正樹は、言葉足らずでわかりにくいでしょう?」

フリッツは、正樹と数日前に出会った時のことを思い出していた。
一瞬驚いたように目をみひらいて、長い間自分を見つめていた東洋の綺麗な青年。
その時は、愛を交わすようになるとは思わなかったけれど、正樹は運命だと口にした。




本日もお読みいただきありがとうございます。
相変わらず、田神は不器用な正樹の事をよくわかっているみたいです。
フリッツは、この後どうするかなぁ。(*´▽`*)


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