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小説・約束・34 

まだこの当時、日本では肺病及び、結核は業病といわれていた。
薬がないまま、体力のないものや、抵抗力のないものは発症し、どこの隔離病棟もいっぱいだったのだ。
米国では、効き目の強いペニシリンが量産され多くの命が助かっていたが、国内のどこにもそんな薬はない。
滋養さえつければ、自然に回復するはずの者も、栄養不良に因る体力低下で大勢が命を落としていた。
常時の微熱と、長引く咳、胸の痛み、吐血、それが徐々に酷くなってやがては死に至る・・・・
そして、秘密の廃屋で聞いた、続木男爵の破産の話は現実だった。
朽ちた洋館から屋敷に戻ってきた、続木男爵は激しく苛立っていた。
金工面は行き詰まり、どうにもならなかった。
このまま行くと、先祖伝来の土地もすべて手放すことになるだろう。
凛斗が元気なうちは、好事家の大久保伯爵からいくらでも金を取れたが、病気がばれて血を吐く生き人形に用はないと足が遠のいて久しい。
硝子ケースに入っているのを眺めるよりも、直に愛でたい性質なんでね、直ったら声をかけてくれと言われてしまったらどうしようもない。
悪態を吐く続木男爵の、万策は尽き果てていた。
没落の元々は、見栄坊な先代と一族が、贅沢三昧して過ごしたのが原因だった。
貴族院議員に籍を置いているといっても、今は殆どが軍の息がかかった議員ばかりで、まともな仕事などしてはいない。
田畑は、小作にまかせっきりで見回りさえやってこなかった。
今も、領地の収穫量も知らない有様だった。
一族中が豪奢な生活を捨てきれず、愛人の生んだ長男に金の無心を繰り返した。
心ある者が止めた相場に手を出したときに、大金を得たのが「けちのつき始め」だった。
一度損をし始めると、火に油を注ぐように、坂を転げ落ちるように、大金が露と消えた。
幾らつぎ込んでも、素人相場師に損を取り戻すことは二度とできない。
高価な掛け軸や、唐三彩の壷、薩摩切子、先祖伝来の将軍家拝領の大刀までが、足元を見た骨董屋に二束三文で持っていかれて見る影もなくなった土蔵。

「一体、どうすればいいんだ。」

金に換える私財を失って、いよいよ煮詰まった、続木男爵は髪をかきむしった。
凛斗が言うように、もうできることは何もない。
後は、近隣の地主、佐藤に頭を下げて金を借りるしか手立てはなかった。
だが、既に縁を切った仲だった。
凛斗を連れて米国から帰ってきた義姉に、今はない後妻の母が、例えようのないほど酷い仕打ちをしたのだ・・・
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