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波濤を越えて 35 

互いに幸せな日々が続くと思っていたある日、別れは唐突に訪れた。

近県の美術館の所蔵品を調べて、鑑賞に出かけていたはずのフリッツが、突然正樹の美術館に現れた。
出会った時と同じ、大きなデイバッグを背中に背負って。

「フリッツ?どうしたんですか?」

強張ったフリッツの顔に、ただ事ではないと知る。

「正樹。わたしは急いで国に帰らなくてはなりません」
「えっ……!」

抱えていた館内案内パンフレットが、ばさばさと足元に落ちた。
何度も顔を出すフリッツが、正樹の友人と知っている美術館の職員が、二人の様子を見て応接室を使っていいよと声をかけた。

「ありがとうございます。少しの間、お借りします」

フリッツよりもなお顔色を白くして、正樹は何とか椅子に座った。
まだ観光ビザが切れるには一週間はあったはずだ。
正樹には、突然すぎる帰国の理由が想像できなかった。

「……何があったんですか?」
「うん。ニュースを見ていないかな。ギリシャが経済破綻したらしいんだ」
「それは、昨日の話?昼食の時間に皆で話しましたけど、フリッツの国はドイツだからギリシャとはそれほど関係がないでしょう?」
「そうだね。そう思うのも無理はないね。だけど以前、わたしは叔父の店を手伝っているという話をしたことがあるだろう?」
「陶芸の……?」
「叔父の会社は、普段使いの雑器をギリシャに沢山輸出をしているんだ。だから、わたしは叔父の会社を守るために帰らなければならないんだ」

経済破綻したというギリシャは、いくつかの問題を抱えていて、これまでもいつか破綻するだろうと言われてきた。共通の通貨(ユーロ)を使っている各国が、どれだけの影響を受けるか計り知れないという。

「まさか、すぐにEU離脱なんてことはないと思うけれど、こうしてのんびり色々な国を回っていられるのも、会社が利益を上げているからなんだ。折角、日本をあちこち旅して良いデザインを考えても、会社が倒産してしまったらどうすることもできない。会社がなくなれば、わたしは陶芸マイスターとしての職を失うかもしれない。それはわたしにとってとても切実に困る事なんだ」
「フリッツが国に帰れば、会社は守れるの?」

フリッツは即答できなかった。
輸出した製品の代金を回収できなかったら、事態は深刻になるだろう。しばらく逡巡したのち、フリッツは正樹に笑いかけた。

「心配しないで。可愛い正樹。なるべく早くできる限りのことをするつもりだよ。日本でも、何軒か取引のめどがついた。しばらくすれば、正樹にもきっと、いい報告ができると思います」
「あちこち回っているだけではなくて、仕事もしていたの?」
「ええ。雑貨を置いている店は、日本に沢山ありますから。販路を広げれば、堂々と日本に来る口実を作れるからね。少しの間、別れることになるけど……正樹、どうかわたしを信じてください」

真摯な眼差しが、正樹を捉えた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
このお話は設定上、少し前のお話なのです。だから、ギリシャの経済破たんのお話で「?」になるかもしれないけど、これで大丈夫なのです。
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「フリッツ……」



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