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波濤を越えて 31 

自分は正樹の幼馴染で一番の親友ですと、田神はもう一度自己紹介をした。
フリッツは満面の笑顔で、握手を求めてきた。

「よろしくお願いします」
「フリッツ、あのね。田神は、とても頼りがいがあるんだ。同じ年なんだけど、まるで父親みたいにしっかりしてるんだよ」
「そうじゃなくて。正樹といると、誰でも保護者になってしまうんだろう。一緒にいるとわかるでしょう?」
「正樹を……大切にしたいと思う事?」
「そうです。さっきまであなたから連絡がないって、こいつはすごく落ち込んでいました。もしかすると嫌われたかもしれないって、思ったみたいです」
「まさか!」
「だって、連絡方法を知らなかったから……フリッツの携帯番号も、メアドも教えて貰ってないよ」
「ごめんなさい、正樹。でも、すぐに帰ってくるつもりで出かけたんです。本当です」

意図せず、甘い雰囲気になりかけたのを、田神は全力で阻止した。
話がまるで進まないからだ。

「あなたは正樹にドイツに来ないかと誘ったそうですけど……」
「ええ。わたしは運命の相手にやっと会えたような気がしたのです。正樹と話をするのは、とても心地良い。いつの間にか時間が経ってしまって、眠る時間も忘れてしまいます」
「では、あなたも正樹と同じ気持ちなんですね」
「そうです。信じられないかもしれませんが、正樹と出逢ったのは何かに導かれたような気がします。」

正樹が嬉しくて泣きそうになっているのは、とりあえず見ないふりをして、田神は一般的な話をした。

「正樹は、一人っ子です。いつかは両親の面倒を見なければなりません。今は、行き違いがあって、疎遠になっていますが、俺は時間が解決してくれると思っています」
「……それは、正樹がドイツに行けないということですか?」
「そうではありません。でも、観光などでしばらくあなたの処に滞在するというのは可能でしょうけど、定住するのは難しいでしょうね。正樹の両親は、とても保守的なんです」
「……田神。今、そんな話をしなくても……」

正樹は誰かが自分の事で揉めるのは嫌だった。

「先延ばしにするのは簡単だけど、正樹が彼をもっと好きになったら、余計にこんな話はできなくなるよ。正樹は彼の事が好きなんだろう?彼と引き換えに、学芸員になる夢をあきらめるの?」
「……」
「だったら、余計にこういう話は最初にしておいた方がいい。学芸補からだから最短でも、あと数年はかかるんだろう?」
「たぶん。……それに欠員が出るかどうかもわからない狭き門なんだ」
「正樹はドイツ語もできないし、西洋人の根底には、おそらく東洋人に対する偏見もあるだろうから、彼の家族のことも考えた方がいい」
「フリッツの身内なら、いい人達だと思う。たぶん大丈夫だよ」
「正樹……」

能天気な正樹に、田神は呆れた。

「大丈夫の前には、たぶんじゃなくて「必ず」が付かなきゃだめだ。正樹はいつだって楽天的すぎる。誰かを好きになるのは簡単な事じゃないんだよ。大人になれば尚更そうだ。もっと周囲をちゃんと見ないと」

正論を言われて正樹はしょんぼりとしてしまった。

「今が良ければいいと思ったんだけど……それじゃ駄目なのかなぁ」
「俺は構わないけど、正樹は泣くだろ?相手が自分を負担に思ってるってわかったら、身を引いてしまうだろ?もしも、相手に誰か良い人ができたら、正樹は見知らぬ土地でどうやって生きてゆくの?俺はドイツにはいないんだよ」
「田神……」
「そんな顔をしてもだめだ」

正樹の手の中で、フリッツの拵えたミルクピッチャーが揺れた。




本日もお読みいただきありがとうございます。

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「正樹のことを心配してるから言ってるんだよ」「うん……」

さすがに、じゃあ田神一緒にドイツに来てとは言わないでしょうけど、ぼんぼん育ちは若干ずれてます
……(´・ω・`)


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