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波濤を越えて 30 

食事の途中で帰った先日のことを、田神は持ち出してきた。

「今日は俺がおごるから」
「うん」
「そこまで送るよ。涙は止まった?」
「田神……あの、突然呼び出してごめんね。……彼女と約束とかしてなかった?」
「気にするな。茉希は正樹のファンだから、正樹が泣きべかいて俺を呼んでるって言ったら、早く行ってあげてってさ」
「……何かそれって、優先順位が変……」
「いいんだよ。正樹は、昔っから手のかかる弟みたいなもんだろ」
「否定はしないけど……」

金木犀の香りの混じる夜風は、秋の訪れを告げていた。

「この辺で良いよ」
「まあもう少し。アパートが見えるところまでね」
「過保護だなぁ。そんな子供じゃないよ」
「泣いたくせに?まぁ、正樹を甘やかすのは、俺の趣味みたいなもんだからな」

肩を並べて二人は歩く。
考えてみると、幼馴染とはいえ不思議な関係だった。
いつも正樹の傍には陰になり日向になり田神がいて、困ったときにはいつも手を差し伸べてくれた。

「……正樹。街灯の傍を見て?誰かが立っている」
「あ……っ」

大きな男がアパートの正樹の部屋を見上げている。
こちらに気づいて、名を呼んだ。

「正樹!」
「フリッツ……」

手にした大きな荷物をその場に置き、待ち人は駆けよってきた。

「明かりがついていないから、いなくなったのかと思った……。良かった、正樹」

いきなり抱きしめられて、息が詰まる。

「フリッツ……どこに行っていたの……」
「海の近くの大きな町だよ。器が出来上がるのを待っていたんだ」
「器?美術館で見ていた……?」
「そう。自分で絵付けをしてきた。丁度運よく火入れをする窯があったので、できるまで待っていたんだ。本当は器を作るところからやりたかったんだが、時間がなくて素焼きの器を購入した」

田神は話に割って入った。

「正樹、いいか?」
「あ、うん。田神……こちらがフリッツ。ドイツから来て、日本のあちこちを観光してるんだ」
「初めまして。正樹の友人で田神と言います。少しお話してもいいですか?」
「あの……田神。立ち話もなんだから、上がって」
「そうだね」

久しぶりに入った正樹の部屋は、相変わらず何もない。部屋の片隅にあるマルスの石膏像とイーゼルは依然訪れた時と変わらない場所にあった。

「正樹にお土産があるんだ」

そういいながらフリッツが取り出したのは、小ぶりのミルクピッチャーのようだった。

「こっちは、わたしがルーテンブルグで作ったもの。渡したかったのだけど、そのまま出かけてしまったから」
「ありがとう。とてもかわいい。これが前に言っていた手描きの図案なんだね。くすんだ水色とアイボリーの水玉ってきっと飽きの来ない組み合わせだね」
「わたしはね、正樹にもこんな風に絵付けをしてもらいたいと思ったんだ。ほら、以前アイリスの話をしていただろう」
「曲面に描くのってやっぱり難しいのかな」
「え~と……」

田神は内心、思い切り悪態をついた。なんだ、このままごとみたいな会話は。
さっきまで居酒屋でぴぃぴぃ……ではないけど、めそめそ泣いていたくせに。



本日もお読みいただきありがとうございます。

(*´▽`*)「あ。フリッツが帰ってきた~」
"(-""-)"「はいはい」


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