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波濤を越えて 18 

柳瀨を見送った正樹は、見えなくなった男を探した。
いつの間にか姿が消えていた。

「どこに行ってしまったんだろう……あっ、いた!あの……っ!待ってください」

夕闇の中、去ってゆこうとする大きな背中に追いついて、頭を下げた。

「助けてくださってありがとうございました」
「どういたしまして。でも、わたしは余計なことをしたのではないですか?別れるとき、とても仲のいい友人に見えました」
「彼は今、事業に失敗して、とても苦しい状況にいるんです。だから僕は、手を振り払うことができなかったのです」
「それなら良かった」

正樹は、男が美術館で別れた時の格好だったのに気づいた。

「あの、もう遅いのに宿泊場所に行かれないんですか?」
「近くに安いホテルがないので、今夜はここで野宿します。公園の大きな遊具の下にスペースを見つけましたから、その下で一晩泊まるつもりです」
「公園って、あの滑り台の下?」

そこにあるのは、子供たちに人気の小山ほどもある大きなコンクリート製の滑り台で、下部には子供が走って抜けられるほどの広い空間があった。

「ええ。駅前のポリスに許可も貰いました。気候がいいので、きっと快適です。日本は治安がいいので、安心して眠ることができます」

にこやかに笑う男につられて、正樹もつい笑顔になる。

「でも、固いところで眠るのは、大変でしょう?」
「わたしはとても頑丈にできていますから」

胸を張った男には確かに、そんな心配は必要なさそうだ。
正樹は、胸板の厚い男との会話を楽しいと思ったが、明日また会えるだろうと思い直した。

「じゃあ、僕は帰ります。お気を付けて」

背を向けると、今度は向こうが声をかけてきた。

「あの……あなたを家まで送ってあげたいと思うのですが、失礼でしょうか?」
「え?」
「余計なことかもしれませんが、先程の彼が、あなたを襲ったように見えたので、心配になりました。……あなたは、出会ったときに美術館でも思ったのですが、とても可憐で花のようです」
「花……それは手折られるという意味なんでしょうか?」
「手折られる……?……それは、どういう?意味が分かりません」
「日本語の花を手折るという言葉には、女性を自分のものにするという意味があるのです。僕は女性ではありませんから、見た目を花に例えられるのは、余り嬉しくないです」

正樹の声は沈んで暗かった。
思いがけず、機嫌を損ねたようで、男も慌てたようだ。




本日もお読みいただきありがとうございます。
仲良くなれるといいね。(*´▽`*)


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