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波濤を越えて 15 

それから半年後、宣言通り正樹に寄り付かなくなった柳瀨は卒業してゆき、正樹は美術室の住人に戻った。
周囲はどう思っていたかは知らないが、田神との関係は友人のまま進展することはなかった。
やがて希望通り、正樹は美術大学に入学し、卒業してからは学芸員補として美術館で働いているのが現実だ。

***

「田神。携帯が鳴ってるよ」
「誰だ、こんな時間に……学校から?ちょっと待ってて」

田神は携帯を手に、居酒屋の外へ出たが、すぐに戻ってきた。

「悪い、正樹。クラスの子の親が亡くなったらしい。今の電話、教頭からだったんだ。すぐに家に行ってやらないと心細いだろうから、このまま行くよ」

慌ただしく伝票をつかもうとする田神を制して、正樹も立ち上がる。

「支払いは済ませておくから。早く行ってやりたい気持ちはわかるけど、親戚も集まるだろうから、着替えはしていった方がいい」
「そうだな。じゃあ、頼むよ」
「いいから、急げって」
「また連絡する」

田神を見送って、清算を終えた正樹は、とっぷりと日が暮れた外へ出た。
少しの飲酒で火照った頬に、夜風が気持ちよかった。
居酒屋を出ると、誰かに声をかけられた気がしたが、店の中の誰かのあげた祝杯の声だったかもしれない。

少ない街路灯のせいで、家までの道は暗い。
ふと、足音が二重に重なっている気がして、正樹は足を止めて振り返った。

「誰か……付いて来てる……?」

胸騒ぎがして、走るように帰り路を急いだ。
先程聞いた田神の言葉が、脳裏をかすめる。
心の中に沸いた可能性を否定しながら、正樹は足早に歩を進めた。

不審者に後をつけられるのは初めてではない。
甘い蜜をたたえる可憐な花は、時々知らない誰かにつけられたり、待ち伏せされたりすることがあった。
誰にも言ったことはなかったが、幼いころに数人の高校生に公衆トイレに連れ込まれそうになったこともある。
その時は、散歩途中の老人の機転で事なきを得たが、それから自分が、好奇の目を引いてしまうのではないかと自覚した。
だから普段から正樹は人と関わることに慎重だったのだが、酒を飲んだこともあって油断していたのかもしれない。
早くなった足音を振り切るように、正樹は駆け始めた。
後ろの人間も、駆け始めたようだ。

「待てよ、相良」

名前を呼ばれて、思わず足を止める。

「待てって」
「あ……」

振り向いた正樹は、思わず後ずさった。
野球場のライトに照らされたのは、見覚えのある痩せた男だった。
ぼさぼさの髪と無精髭、薄汚れた浮浪者のような男が、闇から出てきてにっと笑いかけてきた。

「俺だ。久しぶりだな」
「柳瀨さん……」

完全無欠と言われていた柳瀨の、過去の片鱗すら感じさせないみすぼらしい姿がそこにあった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
過去編も終わり、これから新しい展開になります。
|д゚)あ、ストックが……

ユーリにはまって、さあ多変な此花です。
萌えポイントがいっぱい……え~と……ほら、このちんスポーツ漫画が好きだから。
━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノきゃあ。

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