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小説・約束・31 

良平の喉が、ごくりとなった。
こんな廃屋に、自分以外に好んで近寄る人間がいるとは思えなかった。
窓の隙間から、陽に焼けて痛んでしまった分厚いカーテンがのぞく。
どうやら明かりが漏れないように、カーテンを引いているらしかった。
抗う声が聞こえた。

「大久保さまにお願いするのは、いやです・・・」

「何度も言っているだろう!」

「それしか方法が、ないんだ。聞き分けのない。」

「・・あっ・・・」

強く頬を張られて、倒れこむ凛斗の姿が影絵のように見えた。
ロウソクの焔の揺らぐ中、人影は二つあった。

「一筆、書けばそれで済むと言っているだろう。頼む。このままでは続木の家が終いになる。」

「いやです。・・・あの方のお側に行きたくない。」

人影は、もう一度凛斗の頬を張った。

「この!役立たずが・・・っ!」

乾いた音がして、何かが倒れた。

「おまえが、肺病になんぞに罹るから、金にならなくなったんだ。」

「生き人形の分際で。」

生き人形・・・?
顔のわからない相手が、何を言っているのか良平にはよくわからなかった。
ただ、無理を吹っかけて凛斗が困っているのは確かなようだった。
思わず、助けてやろうとしたが凛斗の声がさえぎった。

「叔父様・・・叔父様、かわいそうに・・・」

夜目に馴れた眼に、凛斗が座り込んだ相手の頭を抱くのが見えた。

「でも、凛にできることは・・・もう何も・・・ない。」

「どいつも、こいつも、手のひら返しやがって・・・」

「来い!」

黒い獣のように吼えて苛立った影絵は、芝居の場面のようだった。
立ち上がった相手が、凛斗を引き倒した。

「もう、他に方法がないんだ。」

「あっ・・・いやっ」

「気が変わるまで、人形らしくそうしていろ!」

捨て台詞のように、吐き捨てて男は廃屋から出て行った・・・
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