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波濤を越えて 5 

そこにいたのは、腕組みをした上級生だった。
半身を乗り出して、口角を片方だけ上げて笑った。

「知らなかった……君って、そういう趣味があったんだ」

全校生徒の信頼あつい冷静沈着な生徒会長がそこにいた。
しかも理系文系合わせて成績も常にトップクラスという、絵に描いたように華やかな柳瀬という上級生は、正樹には苦手なタイプだ。
壇上にいるのを見かけることはあっても、言葉を交わしたこともなかったし、話しかけようと思ったこともない。
人によっては、すっきりとした切れ長の眼差しに焦がれるものもいたのだが、正樹にとっては爬虫類を思わせる冷ややかな視線は、好きではなかった。
正樹は秘密を見られたせいでひどく狼狽し、顔色をなくしていた。
それでも、何とかこの場を乗り切ろうと、密かに決意した。
震える指先をそっと握り込み、無理やり硬い笑みを浮かべた。

「し……趣味ってなんですか?先輩、こんなの……ただの、冗談じゃないですか。……先生に何か用ですか?だったら、会議が長引いているみたいだから、職員室に行った方がいいんじゃないかと思いますけど……?」
「別に用なんてない。通りかかっただけだ。旧校舎に行くには、この前を通った方が近いからね」
「そうですか……」
「早くこの場を立ち去って欲しいようだね」

柳瀬は、くすりと笑う。

「いえ……」
「ドアが開いていたんだ。今日は誰もいないのかと思って、ふと覗いたら君がいたんだよ。相良君」

何故か柳瀬は正樹の名前を知っていた。

「美術部なので……」
「あのさ……別に俺が来たからと言って、途中で止めることはないよ。マルスへの口づけはあれでおしまいかい?演劇のようで中々いい眺めだった。続けろよ」
「あんなの、ただのキスの……真似事だし……先輩も誰かとしたことあるでしょう?」

言葉は何とか絞り出せたが、視線を上げることもできなかった。動揺で声が上ずったのに、気づかれたかもしれない。

「キスねぇ。女となら最後まで何度か経験済みだよ。その都度相手は違ったけど。君は?」
「……」
「経験ないの?」

柳瀬はどこか楽しげだった。

「あのさぁ、上から見ても膨れてるのわかるぜ、ズボンの前。中で大変なことになってるんじゃないの?……早く始末しないと、ぱんつにカウパーが滲んできてたりしない……?乾くとごわごわして気持ち悪いだろう?」
「そんなこと……!」
「あははっ。むきになるなよ。冗談だよ。可愛いねぇ」

思わず反応してしまった正樹に、柳瀬は声を上げて笑った。

「なぁ。俺たちが君の事を、なんて呼んでいるか知っている?」
「……知らない」
「美術室の聖少女だよ」
「そんなあだ名は迷惑……です」
「ふふっ、迷惑かい?だけど君の事は、入学当初から可愛いって、俺たちの間じゃ有名だったよ。誰が落とすんだろうって賭けをしたりしてね。男ばかりの学校って、どこか変だよね、そう思わない?」
「知りません……」
「間近で見ると、本当に整っているね。かといって、女々しいんじゃなくて、なんかこう硬質な……色が白いせいかな、そこの石膏のジャンヌダルクみたいだ。誰も寄せ付けないって意味では、確かに聖少女かもね……。君はジャンヌダルクの最期の時を知っている?」
「確か、世界史で……火刑になったはずですけど……」
「一般的にはね。実際はもっと残酷なんだ。記録が残っている……ジャンヌは火刑になった後、多くの民衆の前で、息がある状態で身体を開かれて晒されたんだ……。着ていたものがすべて焼け落ちてた時、処刑人は火を弱めたんだよ。固い乳房も、焼けただれた未熟な性器も下賤な民衆に注視され、卑猥な揶揄をされていた。まだ処女だったのに、可哀想にね。彼女は命がけでフランスを救ったのに裏切られたんだ。それから哀れなジャンヌはもう一度、黒焦げになるまで焼かれ、臓腑と子宮が灰になるまで燃やされた。復活の肉体を二度と手に入れられないようにね……残酷だろう?」

そういうと柳瀬は指を伸ばし、先ほど正樹がマルスに触れたように頬に触れようとした。

「あ……っ」
「綺麗な……取り澄ました顔だ。歪んだらどうなるのか、いつか見てみたかったんだけど、なかなか機会がなかったからね。睨んだ顔もいいね、そうだ……煽情的っていうんだ、そういう表情」
「そんなこと知らない……」
「……そそられるって言ってるんだよ。ねぇ、相良って……まだ誰とも寝たことないんだろ?」

一体、何を言いたいのだろう。
柳瀬の顔はひどく下卑たものに見えた。脳内の早鐘はその場を早く立ち去るべきだと告げている。
しかし、猛禽類に狙われた哀れな野鼠のように、正樹の身体は竦み硬直していた。

「マルスにしたように、俺にキスしてよ、ジャンヌ」

悪寒が走り、ざっと肌が粟立つ。




本日もお読みいただきありがとうございます。
柳瀬は中世の拷問などに興味があって、詳しいみたいです。此花も好きですけど……
生徒会長というのはあまりにありがちな設定なのですが、説明が省略出来て楽な気がします。(*´▽`*)
そういう性癖なんでしょうが、詳しく書くのは違うお話になってしまうので、流しておきます。
誰かの口から、拷問の話等聞くのは、ショッキングで少し怖いのではないかと思います。(`・ω・´)
(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「やめろよ~、え~ん……」←どうやら怖かったらしい……

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軍神マルスと正樹

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