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波濤を越えて 4 

正樹は高校生になっていた。
仲の良かった友人達とは、残念ながら進学先が分かれていた。
友人の中で唯一、田神と共に進んだ進学校で、放課後、正樹は変わらず美術室にいた。
絵の好きな正樹の夢は、中学のころと変わらなかった。
美術大学へ進学し、いつか学芸員の資格を取って生計を立てたいと考えていた。

その日は、職員会議が長引いているようで、いつもデッサンを指導してくれる美術教師の姿はなかった。
美術教室には、熱心な教師の骨折りのおかげで、公立高校にしては多数の石膏像が、収集されていた。いささか趣味も含まれているようで、所せましと並んでいるのは、ギリシア彫刻の神々の彫像だ。
中には、ナポレオンや、ジャンヌダルク、ミケランジェロといった、系統の違うものも並んでいるが、それは別の誰かが選んだのかもしれなかった。

正樹はイーゼルに立てかけたキャンソン紙に木炭を走らせ、黙々とマルスの胸像を描写していた。
静かな美術室で、少しかび臭い石膏の青年たちの絡むことのない視線を浴びて、正樹は満ち足りていた。凛々しい青年の高い鼻梁を、躊躇うことなくすっと一本、木炭で引く。
美術大学の受験でも有名な、ボルケーゼのマルスは視線を下に落として、静かにゆったりとした内省的な表情を浮かべているように見えた。

遠くで運動部の声が聞こえる。
何気なくデッサンの手を休め、石膏の肌に陰影の濃くなった放課後、正樹はゆっくりとマルスに近づいた。
端正な顔、美しい完璧なプロポーション。正樹の理想の姿がそこにあった。
神話の世界の青年像の顔に、そっと触れてみる。
現実の誰かと重ねたわけではないが、こんな風に厚い胸板の人に力強く抱きしめられたら……と思うと高く心臓が跳ねて、身体の芯が熱くなった。

「ねぇ……マルス、あなたは僕の事、好き……?」

語らない彫像の滑らかな頬を、そっと撫でて両手で挟み込んだ。

「そう……じゃあ……キスして……大人のキスだよ」

ほんの戯れだった。
応えるわけのない彫像の上唇をそっとついばんだ。
マルスの胸筋に手のひらを滑らせ、人差し指の腹でゆっくりと撫でるように円を描いた。

「ふふっ……気持ちいい?」
「いいね」
「……!!」

誰もいない美術室の壁に、長い影が揺れたのを見て、正樹は慄いて胸像から飛び離れた。
全身の血が逆流してしまったような気がする。
見られた……!





本日もお読みいただきありがとうございます。
正樹の心臓はばくばくです……(´;ω;`)ウゥゥ……見られちゃった……どうしよう
|д゚)ノ|一体、覗いていたのは誰なのか……
このちんの筆が進む……Ψ( ̄∇ ̄)Ψ←いじめっこ~


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