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Caféアヴェク・トワ 君と共に23 

「正樹が亡くなってから、貞夫さんも時々あなたのことを話すようになってね。ほら、前に松本さんがわたくし宛に週刊誌を送ってくださったでしょう?」
「直が載ったホテルの特集号ですね」
「あの子ったらね、本屋に二十冊も注文したのよ。取引相手に、うちの愚息もなんとかやっているようですなんて、配り歩いたりしてね。笑っちゃうわよね、あの強面で、こっそりホテルのケーキを買いに行ったのよ」

祖母は楽しそうに笑ったが、直の涙は止まらなかった。
自分のことを決して理解するはずのない父親が、認めてくれていたと知り思いが溢れた。

「知らなかった……おれ、お父さんのこと分かろうとしないで、自分の事ばかり考えてた……ケーキ……買いに来てくれたんだ」
「良かったな、直」
「嘘……み……たいだ」
「真っ直ぐ突き進むのもいいけど、少しは周囲を見る余裕をお持ちなさいね。分かり合う努力を惜しんではだめよ。あなたはひとりで生きているのではないのだから」
「う……ん。おばあちゃん。まあちゃんとお父さんの事、話してくれてありがとう……おれの思い出の中のまあちゃんは、いつも悲しそうだったけど、こんな風に嬉しそうに笑ってたんだね。後ろ……これ海かなぁ」
「綺麗な夕日だな」

写真の夕日はまるで絵葉書のように美しかった。
正樹の恋人は陶芸家で、観光で日本を訪れた際に知り合ったということだった。
彼は故国と家族を捨て、正樹と暮らすために、瀬戸内の小さな島に工房を開いたのだという。
絵が好きだった正樹は、死が二人を分かつまで恋人の作る焼き物に繊細な絵を描いた。
唯一の理解者でもあった祖母に、日々の何気ない暮らしを伝え、届いた焼き物は正樹の生きた証となった。二人で作ったぽってりとした焼き物は、どれも温かい。

『直は、そのままでいいんだよ。ね、約束だよ。直は自由に生きて……ね』

きっと、正樹は幸せだった。
精一杯自由に生きた。

「いつか、おれも匡さんと一緒に、まあちゃんの恋人が住む島に行きます」
「そうだな。しばらく休みは取れないが、必ず行こう」
「お邪魔虫だけど、わたくしも行きたいわ。松本さん、誘ってくださる?」
「ご一緒していただけると嬉しいです。な、直」
「応援団が来たら、まあちゃんが喜ぶね。」
「あら。おいしいものがあると思うから行くのよ。でなきゃ、一緒になんていかないわ。それに食事は直が全部おごるのよ。」
「おばあちゃんの方が、金持ちだと思うんだけどな」
「心配かけたお詫びだな、直。奮発するしかないぞ」
「匡さん、ボーナス張り込んでくださいね」
「わかった。何とかする」
「……貴方たちみたいなのを、ばかっぷるっていうのね」
「ひどいよ」
「あはは……」

心が満たされていた。
優しい潮風に髪を弄られながら、正樹の生きた形跡をたどりたい。それは、きっとこの老婦人の願いでもある。
いつか……と、約束を交わし、二人は直の実家を後にした。




本日もお読みいただきありがとうございます。
終盤になって、いろいろとありまして、ごめんなさい。未だにお返事いただけない状態です。(´・ω・`)
いよいよ明日で最終話です。
どうぞよろしくお願いします。(`・ω・´)


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