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小説・約束・30 

「又、来る」、と言ったきり、良平はあの森の廃屋へ行けないでいた。

まさか、あの子が待っていたりはしないだろうけど・・・と思った。
ふとした時に、面影を思い出す。
自分よりも下に見える3つ年上の、青い眼の痩せた少年。

「続木凛斗」

相場で失敗し、没落を噂される続木男爵と、同じ苗字が気になっていた。
佐藤の家は、大地主で米だけを作っているが、続木男爵は同じような地主でありながら、長男が相場に手を出したらしいと噂は子供の耳にも入ってきていた。
相場というのはよくわからなくても、砂糖や小豆相場に手を出して、身代を一代限りで無くすという話は、よくある話だった。
そういった波乱の話は、面白おかしく尾ひれがついて、小さな村中にあっという間に広まるのだ。
続木の家の小作達が深刻そうなかおをして、大勢で尋ねてきたりしていた。
田畑を失いかねない彼等の切実な話は、夜半まで続く。
家の皆が話に夢中になっている間に、家を抜けて行くのなら誰にも咎めだてはされないかもしれない。
そう思うと、良平の気は急いて、居ても立ってもいられなかった。
今日はみんなで銭湯に行ったから、風呂に入ることはなかったが、風呂場で一つ石鹸を貰ってきた。

「あ、そうだ・・」

折れそうに細い腕と、薄い背中を思い出し、食べ物を持って行ってやろうと思った。
陸軍の兵隊が、缶入りの焼き菓子や、乾パン、キャラメルを置いていってくれたから、少しだけかばんに入れた。
凛斗と名乗ったあの子は、これを見てどんな顔をするだろう・・・
何となく楽しみだった。
民さんが内緒でくれた、兵隊に持たせたぼた餅の残りも、二個ある。
この前よりも月が高く上がって、夜道は明るかった。
おっかなびっくり歩いた、獣道のような所も二度目は平気だった。
前回と同じように、枯れた枝や葉を踏みつけるたび、足元ではやたら大きな音がしたが、そこに「青い眼」の凛斗がいると思うと気持ちは浮き立った。
ロウソクの揺れる明かりは、今日は見えなかった。

「いないのかな・・・・?」

一人ごちながら、そうっと扉に耳をつけると、人の話し声が聞こえてきた。
誰だ・・・?

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