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Caféアヴェク・トワ 君と共に6 

今でこそ落ち着いているが、木庭組に世話になり始めたころの松本は、感情のふり幅が激しかった。
一度、頭に血が上ってしまうとささくれた感情は、自分では抑えがきかない奔流となる。
荒れ狂う衝動に任せたまま、相手が手向かいできなくなるまでぶちのめし、相手の流した血の海の中でやっと我に返るような塩梅だった。
やりすぎだと文句を言われても、自分に非がない以上決して頭は下げなかった。
松本を拾ってくれた木庭組の面々は、そんな時、親よりも親らしく意固地な松本を守り支えてくれていたように思う。

*****

「おう、松本。昨夜は五人相手に、大立ち回りをやったそうじゃないか。それくらいの怪我で済んで良かったな。相手は病院送りなんだろう?」
「すんません、親父さん……組のこと舐められて、つい切れちまいました……」
「いちいち腹を立てていたら、体がもたねぇぞ。まぁ、木本だって昔は結構、やんちゃだったからな」
「そうですか……」
「おめぇが大した怪我じゃなくて、良かったよ。青タン貰って、箔が付いたじゃねぇか」

木庭組の組長は、落ち込む松本に包み込むように優しい顔を向けた。
誰よりも男気があって、昔の極道を彷彿とさせるような面倒見の良い男だった。
残念ながら、不幸な事故のせいで月の半分は寝込んでいて、組の経営はほとんど組長代理の木本が代行していた。
木本も木庭組長に心酔する一人だった。
極道に沈むような男には喜怒哀楽ってのがないんだぜと、兄貴分の木本がいつか笑って話していたことがある。

「極道が生きていくには、喜怒の二つあれば十分ってことさ」
「どういう意味っすか……?」
「単純でいいってことだよ。うちの親父も、今でこそあんな風に話のよくわかる人だけどな、若けぇ頃は相当短気だったらしいぞ」
「……そうなんすか……」
「叔父貴に聞いた話なんだがな、親父はガキの頃、気に入らねぇやつを見つけては、履いてた鉄の雪駄を脱いで鼻っ柱を殴りつけて回ってたらしいぞ。戦闘意欲を削ぐには、効果的だそうだ」
「すごいっすね」
「さすがに鉄下駄で殴られたら、鼻骨が一撃で折れちまうから、百戦百勝だったらしいな。だから、最初に頭をぶちのめす松本の喧嘩の仕方は正しいと、親父さんが言ってたぜ」
「それって、ほめてくれてるんすか?」
「そう思ってりゃいいじゃねぇか。」
「でも、親父にも兄貴にも頭下げさせてばっかりで、申し訳ないっす……」
「何だ。そんなことを気にしてたのか?あのな、周りの大人ってのは、ガキの自尊心を守るためにいるんだ。俺の軽い頭くらい、親父の代わりにいくらでも下げてやるから、気にすんな」
「いつまでもガキで……すんません……」
「だから~。謝るなって、言ってんだろ。男だろ?泣くんじゃねぇよ」
「だって……」

腫れた顔を冷やしながら、松本はうつむいた。
松本が派手に喧嘩した相手の組に、木本が組長代理として相場よりも遥かに多額の見舞金をもって、何度も謝りに行ってくれた事も知っている。
相手の組は、木庭組よりも多くの構成員を抱えた名の通った大きな組だ。先に手を出したのは向こうで、自分は悪くないと言い張ったが、相手は大腿骨を折る重傷だったから、松本の過剰防衛だと言われればどうしようもなかった。
松本がかざすちっぽけな道理など、誠意を要求する相手の無理の前にはあっさりと粉みじんになった。
詫びも言えないかたくなな自分の代わりに、親と兄分に頭を下げさせた申し訳なさで、涙があふれた。

子供のころ、遊び相手に些細な怪我をさせた時、理由も聞かずに竹刀がささらになるまで自分を殴り倒した義父とは大違いだ。
躾と称し、松本を暴力で服従させた義父が、ここの人たちと同じ男であると到底思えない。
責めるでもなく、がしがしと乱暴に髪をかき乱す大きな掌は温かかった。
家族とはそりが合わなかったが、数年前、家族よりも親密な関係を手に入れた場所には自分のことを誰よりも理解してくれる人たちがいる。世間で後ろ指をさされているはずの男たちは、世界中が敵に回ったとしても松本の味方をしてくれるだろう。

「おやっさん……兄貴」

優しい彼らに、無性に会いたかった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
松本の過去には、あまり触れてきませんでしたが、木庭組の面々が、やんちゃな松本にどれほど優しかったか垣間見えるエピソードです。
不器用だね、松本。(´・ω・`)


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