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caféアヴェク・トワの住人たち 9 

誘われた茶室はほの暗く、清楚な白い秋明菊が、竹筒に活けられているのが、明かりのように目を引く。
四畳半ほどの狭い茶室で、釜の鳴る音を聞き、くゆる香に鼻をくすぐられると、妙に落ち着くのが不思議だった。
勧められるまま、時の止まった空間で、懐紙に乗せた饅頭を割り、ほんのりと甘い欠片を口に運ぶ。
疲れが、ふっとほぐれてゆくような気がした。
直の祖母は、静かに茶をたてると、そこに置いた。

「どうぞ。」
「いただきます。え……っと、確か……」

置かれた茶碗を持ち上げた松本は、しばらく逡巡したのち二度ほど少し回し、温めの茶をぐいと一気に飲み干した。
見よう見まねではあったが、確か正面に口をつけてはならないと思い出した。
直の祖母は、初心者にもわかるように、正面に柄のある茶碗を選んでいた。

「美味い……っす、です。」
「そう。よかったわ。」
「堅苦しい……というか、こんな風にあらたまった席は、自分には向いてないと思うんですが、不思議と落ち着きますね。部屋の色調というか、この部屋にある全てが上品で華美じゃないのが良いのかもしれないっす……です。ごちそうさまでした。」
「聞いてもいいかしら。」
「なんですか?」
「茶室に入る前に時計を外したでしょう?それは何故?」
「すみません……自分は早く直……相良君を連れて帰りたかったんです。ですから、帰りの電車の時間が気になっていました。でも、茶を馳走して下さると言うあなたに、時間を気にしては失礼だと思いましたので外しました。喉が渇いていたので、茶は一度に呑んでしまったし……何か作法を間違えていたのならすみません。」
「作法というなら、もう少しゆっくり飲んでいただきたかったけれど、気にしなくてもよろしいのよ。きっと喉が渇いていると思って、温めに淹れましたから。」
「それは、石田三成が寺小姓だった時に、秀吉に出した茶の話ですか?」
「あら、そんな話をご存知なの?」
「はい。学校の勉強はからきしでしたけど、歴史だけは好きでしたから本を読みました。相手の求めているものを瞬時に判断しろという話だったと思います。喉が渇いている相手には、最初温めのお茶を淹れる。そして味を知るための一杯と、くつろぐ一杯。秀吉がまだ子供の石田三成を気に入って、連れ帰った話だと記憶してます。」
「不思議な方ね……。」

直の祖母は、やっと表情を崩し微笑んだ。

「あなたは、茶道は何もご存じない風なのに、本質をきちんとわかっていらっしゃるみたい。」
「恐縮です。勉強不足で、申し訳ないです。兄貴……上司からは、いろいろ助言して貰っていたんですが、ついつい億劫で後回しにしてしまいました。これを機会に勉強します。」
「松本さん。」
「あ、はい。」

名乗った覚えはなかったのだが、老婦人は意外にも松本の名を呼んだ。




本日もお読みいただきありがとうございます。
冷たく見えた直のおばあちゃんは、どうやら松本の人となりを観察していたようです。
お眼鏡にかなったのかなぁ……信用してもらえるといいね。

Σ( ̄口 ̄*) 「俺の名を知ってる……?」←やっと何とかお茶がいただけたので、気が抜けた松本

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