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小説・約束・26 

「・・・何か、言いたいことがあるようだな?」

「別に有りません。」

「小作の息子達の中に入ってお山の大将を気取るのも、やめるんだな。」

「そろそろ君も、立場というものを理解するといい。」

腹の中で、沸々と煮えたものが喉元までこみ上げてきた。
お山の大将と名をつけるなら、自分じゃないか。
用もないのに、検閲と名をつけて、駅前のパン屋からしょっちゅうパンを持って行くのを良平は知っていた。
お国のために、父は大切な病院も畳んだのに、この銃後の守りはどうだ?

「教官っ!」

良平は叫んだ。

「本日は、大切な教練を無断で休み、申し訳ございませんでしたっ!」

「以後は、一生懸命励みますっ!ありがとうございましたっ!」

大声に虚を衝かれたように、退役軍人は頷いた。

「供出米の脱穀に、参加しますっ!」

「うむ。もう行ってよろしい。」

「失礼しますっ!」

わざと声を張り上げて、教員室を出た。
お山の大将だなんて・・・結局は、地主の身内は他人の眼に、そう見えるのだろうか。
ぬくぬくと、配属将校の名前に胡坐をかいているくせに。
「頑張れ!敵も必死だ」といいながら、堂々と搾取しているくせに。
役所に「国民決意の標語」10点が押し付けがましく張ってあった。
勝次の父ちゃんだって、戦争に行かなかったらあんな足になることはなかったのに。
真っ直ぐに生きる、父親の背中を見て育った良平には、生きにくい世の中になっていたのかもしれない。
教官とのやり取りは何一つ、良平の気に入らなかった。
父をバカにされた気がして無性に腹が立ち、踊り場にある、ゴミ箱を蹴飛ばした。

「弱い犬ほど、よく吼えるんだ。バカ。」

そのまま大勢が農作業をしている、田んぼまで一目散に駆けた。
勝次の顔が見えた。

「良平、どうしたんだその顔!?」

「あいつに、やられたのか?」

気に留めていなかったが、確かに熱をもってじんじんするそこは、殴られたことで大分腫れたらしかった。

「もしかして、教練さぼったから、殴られたのか?」

「ち、違うよ・・・」

「すまなかったなあ、坊ちゃん。おっかあの、葬式に出てくれたせいで、悪かったなぁ。」

教練をさぼったのは、自分が悪かったから叱られるのは仕方がないと思った。
だが今、一番悲しいはずの勝次と父親に頭を下げられて、良平の怒りは行き場を失った。
背中の弁当を

「やる!」

と、押し付けて良平は駆けた。
そのまま、そこにいたら涙がこぼれそうだった・・・・
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