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caféアヴェク・トワの住人たち 5 

昼休憩の時、揃って賄いを食べながら、やっと不在に気づいた松本が「あれ、直は?」と問うた。

「直くん?……あれ?朝はいたよね。新人の前橋君と挨拶して話もしてたよね?」
「荒木さんに言われて事務所に行ってから、厨房には帰ってきていませんよ。用ができたのかと思ってたけど……違うんすか?」
「俺は、直の様子がおかしかったんで、とりあえず、何とかしてくれるだろうと思って、松本さんにコーヒーを持ってけって言ったんだよ。店長、直が何か、言ってませんでした?前橋を入れる経緯については、松本さんがうまく話してくれたんですよね?」
「荒木……ちょっと、待て。」

松本の手から、箸が滑り落ちた。

「うっかりしてた。その話なら、まだしてねぇぞ。むしろ……用がないとか、かんとか聞いてきたんで……仕事中だったんで、そうだなとか、適当に軽く相槌打ったような気がする。」
「話してなかったんすか……!?うわ~……まじか~。」

荒木は想像していた最悪の事態に頭を抱えた。
ついつい松本を責める口調になる。

「俺、厨房に新人を入れるから、直にうまく話してやってって言いましたよね?」
「ああ。確かに聞いたな。」
「ちゃんと説明してやらないと、直は物事をきっと悪いほうに考える。居場所がなくなったとか、自分を追い出すために新人を入れたんじゃないかなんて考えかねないのは、わかってたことじゃないっすか。だから、あれほど言ったのに~。どうするんすか。」
「やべぇ……!すまん、ちょっと抜ける。直に話しないと。」

松本は店を後にして、走り出した。
迂闊だった。直が一人で泣いている、そんな気がした。
どん底まで落ちた直が、縋るようにして這い上がってきたのに、考えもなく手を振りほどいてしまった。
何故、きちんと話をしてやらなかったのだろう。経営者としても失格だ。
重い灰色の空が、まるで直の気持ちのようだった。

「直―っ!」

取り壊される寸前の、古いアパートの一室にはもう直の姿はなかった。
手すりの錆びついたベランダに出て、周囲を眺めたがそれらしい姿は見つけられなかった。
居場所を失って、呆然とした直が彷徨う姿を想像して、松本はいたたまれなかった。
元々、大した荷物は持っていなかった直が大事にしていたのは、製菓の本と、ルセットの束くらいのものだ。
直の大切な僅かなものが根こそぎ消えていた。

「何で黙っていなくなってんだ。馬鹿野郎。いや、むしろバカは俺だ。」

必死に駅への道を走りながら、松本はふと気づいて愕然とした。
こういう時に、直が行きそうな場所が予想できなかった。小さな空間で直と抱き合って過ごしてきたが、どんな考えを持っているか、何を思っていたか驚くほど何もわからない。
分かっているような顔をして、都合よく直の体を貪っていただけだ。
直を食い物にした黒崎と、何も変わらない。
最寄り駅で帰りを急ぐ雑踏の波に揉まれながら、松本は立ち尽くした。当然、行き交う人の中に、直の姿はない。

「直……どこに行っちまったんだ。」

落ち込んでしまったこんな時に、頼れる相手はいるのだろうか。
松本は今にも泣きだしそうな空を仰いだ。




本日もお読みいただきありがとうございます。
誤解したまま、直くんはどこに消えてしまったのでしょう……(´・ω・`)

ヾ(。`Д´。)ノ 「松本のぼけ~、かす~」
(´・ω・`) 「うん。そう思う……」←どよ~ん……


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