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小説・約束・25 

葬列について歩く、勝次の妹はいつか良平があげた、ぶかぶかのズックをうれしそうにはいていた。
遺体を載せた荷車に寄りかかる、勝次の父の膝は戦争で弾を受けて流れていて、真っ直ぐには歩けない。
それでも、日々懸命に働いてきた。
妻と、愛しい子供達のために。
重い足を引きずるように、遺体を焼く浜へと続く葬列の中ほどで、とうとう力なく座り込んでしまった。
どんな身体になっても、帰ってきてくれたのがうれしいと泣いた妻はもう居ない。
陽に焼けた赤銅色の、たくましい二の腕が涙をこらえて震えていた。
今は、子供たちも学校に行かずに家の手伝いをする、農業の繁忙時期だ。
軍の大きなトラックが、供出米を殆ど根こそぎ運びに来るまでに、玄米にしておかなければならない。
良平の父親が、出征する前に稲木にかけられた稲は、天日で乾燥され、村中総出で脱穀機にかけられていた。
皆が働く中に、勝次の父の姿も有った。
いっそ、働いていた方が気休めになるといって、故人を浜で火葬にした後、午後から二人とも野良に出ていた。
二人を見守る、大きなお腹の陽に焼けた笑顔はもうなかったが、作業は昨日と同じに延々と続く。
勝次の父が、手伝う息子に声をかけた

「いい友達が、できてよかったなあ。勝次。佐藤の家の坊ちゃんが、あんな風に泣いてくれるなんて、おまえは果報者だぞ。」

「うん。」

勝次もそう思った。
その頃、良平は職員室の片隅で、退役軍人の長いお小言に耐えていた。
足元に斜めに視線を落としたまま、真一文字に口を結んで良平は立っていた。
何の言い訳も聞かず、いきなり飛んできた鉄拳は、眼の下に当たった。
紅く目元をはらした良平を眺めて、腰にぶら下げた拝領の軍刀で、肩を小突いた。

「女々しい。実に女々しい。嘆かわしいばかりだ。」

大切な友達の母親の葬儀に出ることが、何故女々しいんだ?
そう声高に、問うてみたかったが諦めた。
わけのわからない波風は、過ぎてしまうまで受け流すに限る。
不意に、あくびが出そうになって押し殺したら、涙が出た。
軍人は反省の余り、良平が涙をこぼしたと勘違いしたようだ。
気を良くしたのか、態度が豹変した。

「君もいずれおじいさんや、父上のように人の上に立つ身なら、甘い考えは捨てる事だ。」

上に立つ・・・?
人に上も下もあるものか。
父なら笑って、きっとそういうだろう。
懸命に生きる者は、皆好きだと勝次の問いに答えた父なら・・・
お爺様なら、どういうだろう。
今、その答えは出なかった。


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