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小説・約束・24 

勝次は、父親と一緒に気丈にも弔問の客に頭を下げていた。
葬式を手伝う隣組の念仏講は、殆ど佐藤の家で働いている農民だった。
ふと、勝次がこちらを向いた。

「良平。」

「勝次・・・」

わんわんと先に声を上げて泣いたのは良平の方で、少し遅れて勝次も堰を切ったように涙にくれた。
わけのわからない勝次の小さな妹が、二人の背中を懸命にさすってくれた。

「ぼく・・・知らなくて。ごめんね、勝次・・・」

「・・・ぼくこそ、夕べの約束、破ってしまったね。」

それ以上言葉にならなかった・・・
勝次の亡くなった母の枕辺で、まるで兄弟のように二人座っていた。
佐藤の家の子供が、その場にいるのを不思議そうにしている大人も居たが、良平は自分の無力を知っていた。
何もできないときは、ただ側にいるだけで力になるんだよと、昔、父が言った言葉を今も信じていた。
勝次の、膝にそろえて握りしめた拳の上にぽとぽとと涙が落ちた。
手伝いに来ていた女達が、話をしている。
腹の中の赤子が、何かの理由で腹の中で死んでいたから、双方とも助からなかったのだろうと話をしていた。
産婆の手に負えない難産で、どうしようもなかったということだった。
大きな大病院でなら、手術で子供を取り出せば、せめて母親だけは助かったかもしれないが、小作の収入では、病院代も払えないだろう。
そんな時代だった。
破水した後、羊水が全て流れてしまって、死んだ子供を外へ押し出せず母は、子供と一緒に黄泉の国へと旅立ってしまったのだ。
まだ小さな女の子と、勝次、そして夫を残して・・・
こんなときに・・・と、後で思うのは虚しかったが、思わずにはいられなかった。
もし、良平の父親がそこにいたなら、勝次の母と小さな命は助かっていたのではないだろうか・・・
そう思うと悔しくて、良平の目からも涙は零れ落ちた。

「勝次。ぼく、きっと医者になるから。」

「お父さんが居なくても、みんなを助けられるような医者になるから。」

頷く勝次の目にも、涙。
側にいた、大人達も泣いていた。

このまま、悲しみが溶けてなくなればいい・・・

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