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Café アヴェク・トワで恋して33 

尾上に見られていた……?
何をどこまで見られていたのかわからないが、直は視野が狭くなり頭がぐらぐらするのを覚えた。
呼吸が浅く早くなり、立っていられなくなる。
気付いた松本がすぐに傍により、座らせた。

「直、水だ。大丈夫か?」
「あ……りがとうございます。ちょっと、驚いただけです。」
「話を聞けるか?」
「はい。」

尾上は、申し訳なさそうに直を見やると口を開いた。

「……それで思いました。その場から逃げ出しながら、兄貴がおかしくなったのは、相良くんのせいだって……暴力を止めることすら考えなかった、俺もどうかしていたんです。自信家の兄が、別人の様になって頭を抱えて苦悩する姿を見て、かける言葉も持たない自分が歯がゆくてどうしようもなかった……。兄は俺に将来の夢をくれたのに……」
「そうか……」
「そのころ、フランスで修行した仲間と大きなコンクールに出品して、兄貴だけが入賞できなかったはずです。凡庸……という評価を聞いてから、兄貴はもっとおかしくなりました。」
「これだから、プライドの高い奴は……」

小さな声で松本が吐き捨てた。

「いい時もあれば、悪い事もあるのが人生だろうに。そんなことも考えられねぇのかよ。」
「平凡だと評価されて、兄貴は傍目にわかるほど落ち込みました。何か慰めの言葉を言おうと思ったけど、俺にはどうしようもなくて……。」
「きついな。自信があったから、尚更打ちのめされたんだろうな。」
「よくわからないけど、そのころ夜はどこかへ出かけて行って、朝方帰ってきました。仕事にもまるで身が入っていませんでした。ケーキのルセットを床一面にばらまいて、ぎらぎらする目で相良くんの事を呟いていました。」
「大体話は見えた。もういいぞ、尾上。」

松本は、尾上の話を遮った。

「兄貴を何とかしてやりたかったんだろう?直のせいで、兄貴の腕がおかしくなったと思ったんだな?」
「はい。」
「あのな……生きてりゃ誰だって壁にぶち当たるんだよ。尾上の兄貴もそうだ。これまでうまくいきすぎていたから、反動が大きかっただけだ。」
「今は……理解できます。相良くんは一生懸命頑張っているし、兄貴のは……理不尽な八つ当たりだったと思います。勝手な思い込みで、相良くんを傷つけて……すみませんでした。」
「兄貴と話をしたか?」
「……いいえ。しばらく会っていません。」
「黒崎な、明日、パリに発つぞ。」
「えっ……!」

本当に何も聞かされていなかったのだろう。尾上は驚愕のあまり目を見開いたまま言葉をなくした。




本日もお読みいただきありがとうございます。
どうやら黒崎は、尾上にも何も言わないで渡仏するつもりだったみたいです。
めんどくさい兄弟だなぁ……

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