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Café アヴェク・トワで恋して32 

尾上の見ていたのは、優しい兄の被った仮面だったのかもしれない。
成功者に見える兄の自尊心は、崩れそうになったまま、誰にも気付かれることなく辛うじて保たれていた。

「洋貴、もし俺の店を手伝う気があるんだったら、大学で経営を学んでみないか?」
「経営?」
「経理や、仕入れの仕事は、結構めんどくてな。もし手伝ってくれるなら、助かる。」
「俺にもできるかな?」
「大学へ行って、勉強すればいい。まだ時間はあるんだ。目指してみろ。真面目にやっていれば、推薦枠も取れるかもしれないぞ。」
「うん……兄貴の役に立てるならうれしいよ。大学なんて考えたこともなかった。高校だって、正直受かるとは思わなかったし……ありがと。」
「どんな高校を出たとか、大学を出たとかは、社会に出たらそれほど関係ないんだ。基本はもちろん大事だけど、結局は、どれほど自分が努力するかだからね。」

兄の勧めで、尾上は大学を目指し、三流大学ではあったが何とか入学した。
兄は自分の事のように喜び、それまで自分に自信を持てなかった尾上も、前向きに将来について考えるようになった。

*****

深々と尾上は、直の前で頭を下げた。

「すみませんでした。」

困ってしまった直は、ちらりと松本のほうを見る。

「黒崎は兄貴だったんだな。苗字が違うから、気づくのが遅れた。」
「はい。今回の事はすべて俺が一存でやりました。兄貴には何も頼まれていません。」
「その言い訳を、俺が丸ごと信じると思うか?」
「信じてもらえないかもしれないけど、本当です。」
「じゃあ……どうして……?尾上くんはおれと黒崎の事を知っていたの?」

尾上はふっと息を吐くと、直を見つめた。
直は尾上が、自分と黒崎の事をどこまで知っているのか気になっている。出来れば、店にいる誰も知らないでほしいと思う。
尾上も真実を口にするには勇気がいるが、言わないわけにはいかなかった。

「詳しい話を兄貴がしたことはないです。ただ、ある日突然、人が変わったようになりました。たぶん、そのきっかけが……」
「おれ……?」

思わず松本が口を挟む。

「言っておくが、この件に関しては直は何も悪くないぞ。」
「そうだと思います。きっと兄貴は自分の弱いところを人に見せられない人間だったんです。弱いところを認めてしまえば楽になれるのに、兄貴はそうしなかった……」
「挫折を知らない人間が、一度崩れるとそうなる。一度折れると、なかなか立ち上がれないんだよな。」
「進路の事で、一度、兄貴の家を訪ねたことがありました。その時の兄貴は俺の知っている兄貴じゃなかった。」
「何か見たの……?」
「ええ。あなたに酷い暴力を振るっているところを。」

直の喉がごくりと上下する。




本日もお読みいただきありがとうございます。
尾上のはどこまで知っているのでしょうか。
Σ( ̄口 ̄*) どきがむねむねします……

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